地域の医療を守り、活性化の中核に 津山中央病院(津山市川崎)藤木茂篤院長

藤木茂篤院長

津山中央病院の完成予想図。「地域の医療を守る」「陽子線治療による西日本のがん患者さんへの貢献」「地域活性化の核となる」の3点を実現し、「日本に誇れる医療サービス空間の構築」を目指す

 ―中四国で初めてとなる「がん陽子線治療センター」を開設するなど、津山中央病院は大きな進化、変貌を遂げようとしています。将来像をどのように描いていますか。

 藤木 「日本に誇れる医療サービス空間の構築」を目指しています。そのために大切なのは、まず最初に「地域の医療を守る」こと、次に「陽子線治療による西日本のがん患者さんへの貢献」、そして「地域活性化の核となる」―この3点です。

 津山中央病院の特徴は、535床の高度急性期病院であり、3次救命救急センターを併設しているということです。救急車の受け入れが昨年ついに5千台を超え、5043台を数えました。心肺停止の患者さんがだいたい年間160人で、2日に1人の割合で来られます。そういう意味でもなくてはならない存在です。当院は大学病院に準じた高度な診療機能を有するとしてDPCII群にランキングされていて、これは中国地方では11病院、岡山県内では4病院だけです。

 さらに、地域医療支援病院であることも大きな特徴です。「県北最後の砦(とりで)」として、地域連携には力を入れています。作州エリアの医療機関との協力体制を強化する連携登録医制度を2014年に立ち上げて、今は75%ほどの医療機関に登録していただいています。何がメリットかというと、患者さんの安心ということもありますが、診療所の先生方自身に不慮の事態が起きたとき、ご病気になったときとか、そうした場合に医師を派遣しています。

 もう一つ、津山中央病院は昨年4月の段階で正職員が1149人(医師122人、看護師597人)いて、県北最大の企業だということです。だからそれだけ地域に貢献しなければならない、という意識で日々診療に取り組んでいます。

 ―現在、県北は人口減少、高齢化が進んでいます。

 藤木 これから津山中央病院がどういうふうな状況になるかを考えたとき、オンリーワンというキーワードが大きいと思います。県南のように多くの病院があれば、一つが閉鎖しても他の病院でカバーできます。ところが県北で200床を超える総合病院は当院だけです。仮に当院の運用に支障が出たとすると非常に大きな問題が生じます。

 人口が減れば患者さんが減ります。単純に考えれば病院施設のダウンサイジングでしょう。ただそうするとスタッフが、特に医師が減ります。医師が減ったら救急が持たなくなります。今、救急外来には常時10人の医師を配置しています。これが維持できなくなると、地域医療の崩壊につながります。ではどうすればいいのか。職員には「現状維持は後退だ。挑戦を続け前進あるのみ」と伝えています。そのため再基盤整備に着手し、その第1弾が陽子線です。

 ―再基盤整備事業について教えてください。

 藤木 18年2月までの1期は、駐車場と医局棟部分に鉄筋コンクリート6階延べ1万3600平方メートルを整備し、救急専門医が24時間待機するスーパーICUを最大12床設置します。183の入院病床、コンビニも導入します。2期は整形外科などの入院病棟を取り壊して鉄筋コンクリート2階延べ3700平方メートルを建設し、ロボット手術室やハイブリッド手術室を整備し、県北でも低侵襲で高度な治療を受けられるようにします。事業完了は19年8月の見通しです。

 中四国では初めてとなる陽子線治療は、がん病巣の深さや大きさ、形に合わせてエネルギーの最大量を調節し、照射できるのがメリットです。一定の深さで止まるので、病巣を通過して周囲の正常な臓器にも影響を及ぼすエックス線と異なり、副作用が少ないのも特徴です。しかも、その陽子線治療を実施している総合病院は、西日本では当院だけです。例えば食道がんの場合、化学療法を併用することが多いので、抗がん剤がきちんと使える施設でないといけません。そこで「西日本のがん患者さんに貢献する津山中央病院」となるわけです。2月3日現在で135件の患者紹介があり、うち県内が94件、中四国や近畿などから40件、海外は中国から1件ありました。

 ただ、当院は陽子線治療だけではありません。病巣の形に合わせて放射線を絞って当てることができる革新的な技術のIMRT(強度変調放射線治療)もありますし、患者への負担を大幅に軽減できる手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」も近く導入します。陽子線治療もIMRTもできます。ただ、こうした違い、メリット、デメリットを患者さんに全て提示したうえで、陽子線を選んでくれたら陽子線治療に入ります。私はそれが医療の王道、総合病院としての矜持(きょうじ)だと思っています。さらに、心臓疾患の高度医療も目指します。それは患者さんの県南への流出の防止につながり、ひいては地域活性化をもたらすでしょう。

 ―地域活性化への道程はどのようなものでしょう。

 藤木 再基盤整備などは基本的に、地域を守るための取り組みです。繰り返しになりますが、まずは地域の安全と安心を担保することが目標で、そのために病院の発展・充実を図ります。さらに集客力のある発展を実現させるため、陽子線治療をはじめとした高度・最先端治療を導入していきます。そして、陽子線治療を核に、西日本一帯、さらには中国やロシアなど海外からも患者さんに来てもらい、地域活性につなげたいと考えています。

 高度医療の提供を前提にした医療インバウンドは、陽子線治療で長期滞在を、PETや脳MRI、胸部・腹部CT、腫瘍マーカーなどの高規格ドックで短期滞在を想定しています。年間300人の患者さんが日本国内から、あるいは海外から家族とともに来てくれれば、津山近隣での宿泊・食事や観光面で大きな消費が生まれます。津山ブランドを確立し、海外の富裕層や、国内のリピーターが定着すれば、大きなにぎわいが生まれるでしょう。津山中央病院は、その中核になりたいと考えています。

     ◇

 津山中央病院(0868―21―8111)

(2017年02月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

カテゴリー

関連病院

PAGE TOP