(30)ペインクリニック 岡山済生会総合病院麻酔科 馬場三和主任医長

ペインクリニックの専門医を目指す若手医師に指導する馬場主任医長

超音波装置を使い、画像を確認しながら神経ブロックの注射を打つ馬場主任医長

心も癒やす「痛みの教育」

 「首から肩にかけて痛くて、腕が上がらないんです」。顔をしかめる患者の訴えに耳を傾けながら、馬場は患部に超音波装置を当てる。

 痛みを取り除くために行うのは、「神経ブロック」という治療だ。神経やその周囲に局所麻酔薬を注射し、筋肉を緩めて血行を良くする。症状に合わせ、脊髄を覆う硬膜の外や首の付け根などに注射するが、重要な血管や神経が集まる部位では超音波装置が欠かせない。

 慎重に画像を見ながら首から肩にかけて数本の注射を打つと、患者は「楽になった」と笑顔に。馬場は「痛みがなくなった時こそ、しっかり動かしてくださいね」と穏やかな口調で笑顔を返した。

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 痛みには、けがによる炎症や刺激に伴うもの、ストレスなど心理的な要因で起きるものなどがある。特に、帯状疱疹(ほうしん)やヘルニアなどの疾患で神経が傷付いて生じる神経障害性疼痛(とうつう)は、放置していると慢性化しやすい。

 週1回の神経ブロックと、慢性化を防ぐ服薬治療が基本となる。薬は、鈍痛やびりびりする痛みには抗うつ薬、電気が走るような痛みには抗けいれん薬など、タイプに応じて適切に選択する。

 岡山済生会総合病院付属外来センターのペインクリニック外来の症例は、脊柱管狭窄(きょうさく)症やヘルニア、腰痛など脊椎疾患に伴うものが半数を超え、次いで帯状疱疹に関連する痛みが多い。年間約1600人以上の患者のうち、約6割に神経ブロックを適用している。

 ただ「注射をすれば、一定期間は痛みがなくなりますが、若いころのような全く痛みがない体に戻るわけではありません」と馬場は強調する。

 痛みがあると体が動かしづらくなり、筋肉が凝り固まってさらに痛みがひどくなる悪循環に陥る。そんな時に馬場が勧めているのは、テーブルを拭くなどの日常的な動作を利用して、患部周辺の筋肉を動かすリハビリだ。治療で痛みが緩和されたタイミングで、痛みが出ない程度に毎日続ければ、筋力の低下を防ぐことができるという。

 「大切なのは『痛みの教育』。痛みと上手に付き合っていく方法を伝えていきたい」と語る。

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 馬場が医師免許を取得した1980年代は、女性医師が活躍できる診療科が限られる“暗黙の了解”がまだ残っている時代でもあった。

 そんな時、岡山大病院では故・小坂二度見氏が麻酔科蘇生科を立ち上げ、男女の別なく、広く若手医師を集めていた。麻酔薬による痛み治療に興味を抱き、スペシャリストを目指していた馬場は、その流れに飛び乗った。

 岡山済生会総合病院では、98年のペインクリニック立ち上げから関わっている。2012年にはペインクリニック専門施設の認定を受け、専門医を目指す若手医師に超音波画像の見方や神経ブロックを指導するなど、育成にも熱心に取り組む。

 患者が快適に治療を受けられる環境づくりにも力を入れており、16年には処置室を広げ、処置台も全て電動式に。外来の待合室には、馬場自身の手で季節の花を生ける。治療を待つ間、痛みを忘れさせて心を癒やす存在となっており、多くの患者が楽しみにしているそうだ。

 「ペインクリニックは、さまざまな診療科の隙間を埋めるのが役目。患者さんと同じ目線に立って心の交流を深め、痛みのストレスから少しでも解放される場でありたい」

 (敬称略)

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 岡山済生会総合病院付属外来センター(岡山市北区伊福町1の17の18、086―252―2211)

慢性痛 性格にも特徴あり 気分転換が効果的

 慢性痛は、脳に伝わった痛みの記憶が長く残っている状態。内服薬による治療だけでなく、患者の性格や気持ちに目を向けることも大切とされている。

 痛みが慢性化しやすい性格については、これまでの研究で、いくつか特徴がある。集中力があり、物事に熱中しやすい▽潔癖症▽完全に治らないと気が済まない完全主義▽細かく日記をつけるなど、きちょうめん▽神経質・短気▽痛み出すとパニックになる―などだ。

 もともとの性格に加え、精神的なストレスや天候などにも左右される。痛みに気持ちが集中してしまわないよう、散歩や趣味などで患者自身が気分転換を図ることも、治療には効果がある。

 ばば・みわ 朝日高、岡山大医学部、同大大学院医学研究科卒。1984年に同大病院麻酔科蘇生科入局。屋島総合病院、岡山赤十字総合病院などを経て、97年に岡山済生会総合病院へ赴任。2009年から現職。日本麻酔科学会指導医・専門医、日本ペインクリニック学会専門医。58歳。

(2017年04月17日 更新)

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