信頼され親しまれる母なる存在に 岡山赤十字病院(岡山市北区青江)辻尚志院長

辻尚志院長

岡山赤十字病院の外観。右の建物が2015年に開設した南館で、がん治療の要となる「放射線治療室」と「化学療法センター」に加え、出産から新生児治療まで一貫して行える「周産期母子医療センター」も整備している

一般病棟とは別に建てられた独立型の緩和ケア病棟。平屋で、自宅にいるような雰囲気づくりに配慮している。計20床あり、多目的ホールや食堂も備える

 ―4月に病院長に就任されました。抱負を聞かせてください。

  1927年に設立され今年90周年を迎える歴史ある病院なので、その伝統を守りながら、さらに発展させていかなければなりません。地域の患者さん、診療所の先生などからより一層「信頼され、親しまれる病院」を目指します。それは、地域の皆さまにとっても当院の職員にとっても母親のような存在となる「マザー・ホスピタル」です。

 ―「マザー・ホスピタル」とは。

  前院長が提唱した概念で、「信頼、親しみ、優しさ、暖かさ、明るさ、安心、育てる心、見守る心」を感じていただける病院が目標です。具体的には、患者さんを「ちゃんと診て、ちゃんと治す」という医療の基本を優しく、分かりやすく実践する病院です。

 大切なのは、病気だけではなく、患者さんの生活全体を考えることです。生活する中で病気を抱えてしまったのだから、その生活の快適性はある程度保障してあげないといけない。すると、退院後の在宅医療も重要になってきます。その意味では地域の病院・診療所の先生方との連携が欠かせません。そうした、患者さんをめぐるさまざまなことを地域全体で考えないといけないというのが、これからの医療だと思います。

 もし、どうしても治療が難しい場合には寄り添っていきます。そのためにも当院は2014年、岡山県内で初めて独立型の緩和ケア病棟を整備しました。

 ―岡山赤十字病院の特徴は「救急医療」「災害医療」「がん診療」の三つだと考えますが、まずは、県内で3病院しか認可を受けていない救命救急センターを中心に「救急医療」について現状を教えてください。

  2015年度に救急車や救急ヘリコプターで受け入れた患者さんは4400人です。3次救急である救命救急センターの主な目的は一刻を争う重篤な患者さんへの対応ですが、1次や2次救急も引き受けるようにしています。課題は受け入れを断る不応需率をいかに下げるかです。以前は不応需率が10%超でしたが、今は一桁です。5%以下を目指しています。24時間対応するため救急部のセンター長を中心に、各診療科の担当を決めて応援に入れる体制をとり、さまざまな疾患に対応しています。

 ―災害医療についてはいかがでしょう。

  1997年には都道府県ごとに原則1カ所設置される基幹災害拠点病院の指定を受け、基幹災害医療センターを設置し、医師・看護師らによる常備の救護班を9班編制しています。DMATの隊員も27人います。常備している装備はテントが22張り、折り畳みベッド272台、担架52本、発電機11台、衛星電話3台などです。東日本大震災では12個班103人を派遣し1412人を救護し、昨年の熊本地震でも5個班を派遣し226人を救護しました。何かあったときはすぐに出動できるよう、日頃から訓練に励んでいます。

 ―2003年には「地域がん診療拠点病院」の指定を受けました。

  がん診療の基本となるのは病巣を取り除く手術ですが、抗がん剤などによる化学療法、放射線治療とうまく組み合わせて対応します。でも、一番は取り切れる範囲のうちに見つけて手術で取り除く早期発見・早期治療でしょう。なるべく体に大きな負担を与えないよう、内視鏡を使った鏡視下手術を積極的に行っています。患者さんの早期社会復帰が目的です。

 治療方針を立てるのが難しい場合や再発した場合、医師や看護師、ソーシャルワーカーなど関係スタッフが集まって相談するキャンサーボードを開きます。患者さんの生活を考えたとき、どういう治療が最適なのかを検討します。医療の高度化に伴い、今はチーム医療が普通になっています。

 私の専門は乳がんですが、15年に開設した南館の「化学療法センター」と、リニアックを導入した「放射線治療室」が役に立っています。リニアックは放射線をある程度一カ所に集積させ、他の臓器への影響ができるだけ少ないようにして治療することができます。

 ―今は緩和医療の重要性が高まっていますね。

  緩和医療の考え方はずいぶん変わってきました。以前はいわゆる終末期医療という捉え方でしたが、今は「がん治療の早期から開始すべき医療」とされています。抗がん剤などによるつらい症状や痛み、精神的な苦痛も対象です。ですから治療を諦めるということではありません。

 がんと闘う治療をどこまで続けるのかという問題があります。がんと闘う、きつい治療はやめた方がいいという時期は、いつかは来てしまいます。そこからは積極的な緩和治療に移行します。その時期は患者さんと主治医とが話し合いをしながら決めていきます。患者さんが「まだ闘いたい」と言えば、なるべくきつくない治療を選択します。そういう意味では最期まで闘っていきます。

 緩和病棟に患者さんが移ったとしても、時間がある限りは顔を出し、声をかけています。「寄り添っています」ということを患者さんに知っていただくのが、緩和医ではない、私にできる治療だと思っています。

 ―救急医療、災害医療、がん診療の三本柱に加え、小児医療や周産期医療にも力を入れていますし、へき地診療も担っています。オールラウンドの病院ですね。

  地域の人たちに役に立てる病院という意味でオールラウンドでしょう。逆に言えば、そうしたオールラウンドの力がなかったら、救急にも災害にもがん診療にも対応できません。昨年4月には大学病院に準じた高度な診療機能を有するとしてDPCII群に指定されました。II群は国内に140病院、岡山県内では4病院だけです。

 先ほど触れました地域連携にも力を入れています。2カ月に1回、地域の先生方に集まってもらって病診連携研修会を開いています。急性期病院としての役割が一段落した後、退院する患者さんの快適な地域生活をどう保障するのか、と言うことになると、機能分化と連携が重要になります。そういう意味では、病院の中でのチーム医療も大切ですが、地域でのチーム医療も欠かせません。ただ、いろんなお互いの事情があるので、それが、まだうまく機能していない部分があります。信頼を深め合い、お互いの受け皿が広がるような方策が必要だと考えています。顔の見える、心のつながりのある連携をしていきたいと思います。

     ◇

 岡山赤十字病院(086―222―8811)

(2017年05月22日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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