岡山県スクリーニング事業 存続危ぶむ声 難聴早期発見、療育 市町村へ移行

岡山かなりや学園で、手遊びを楽しみながら療育を受ける子どもたち

 生後すぐに難聴を発見し、早期療育につなげる岡山県の「新生児聴覚スクリーニング事業」が、国の補助打ち切りで存続を危ぶむ声が上がっている。新年度、事業主体が県から市町村へ移行し、財源も使い道が自由な地方交付税となるためだ。全出生児の大半がスクリーニング(検査)を受ける全国でも先進的な取り組みだが、市町村の事情で地域によって言葉の発達の機会が失われる恐れもある。

 「げんこつやまのたぬきさん…」。言語聴覚士が口ずさむ童謡に合わせ、乳児が手をグー、パーさせながら母親の膝の上で手遊びを楽しむ。

 難聴の乳幼児が通う岡山かなりや学園(岡山市西古松)。補聴器や人工内耳を使って言葉の発達を促す。「最近は『お母さん、公園行こう』と単語をつなげて話せるようになり、発音もどんどん上達している」と、長女(3つ)がゼロ歳から療育を受ける倉敷市の女性(27)。

 同学園ではゼロ歳から療育を始めた園児が全体の約八割。福田章一郎園長は「生後一年以内に療育を始めた園児は就学前の時点で、同年齢の子どもと変わらないほどの単語数を話せるようになる」と強調する。

 難聴児は毎年、新生児千人に一、二人の割合で見つかる。その早期療育を支えるのが新生児聴覚スクリーニング事業だ。厚生労働省が二〇〇〇年度に予算化したのを受け、岡山県は〇一年度、全国に先駆けて始めた。

 費用の半分を県と国が補助する形で、県内の産科医療機関の約八割に当たる四十二機関に検査を委託。赤ちゃん誕生直後に聴覚を検査し、難聴の疑いがあれば精密検査、療育機関へとつなげ、六カ月以内に療育を始めることを目標にしている。県内の検査率は、〇五年度で全出生児約一万六千八百人に対し、77%だった。

 全国各地のスクリーニング事業を調査した東京女子医大の三科潤准教授は「岡山県は委託を受けていない医療機関も含めると、検査率は90%以上になる。医療・療育機関、行政が緊密に連携した検査体制が、高い検査率を支えている」と話す。

 だが、厚労省は昨年度、財政難を理由に都道府県への補助を打ち切り、代わりに地方交付税として市町村に事業費を配分。岡山は、本年度は県が単独で継続したが、新年度から存廃は市町村の判断に委ねられる。

 県健康対策課は「現段階では全市町村が事業に前向きと聞いている」とするが、岡山大病院耳鼻咽喉科の福島邦博医師は「交付税となれば自治体の財政状況により、いつ廃止されるか分からない」と懸念する。

 影響が大きいのは保健師の家庭訪問。今は医療・療育機関から情報が県に集まり、精密検査などを受けていない難聴児の家庭に保健師を派遣、検査受診を勧めているが、廃止により難聴児が療育まで至らず放置される事態も起こりかねない。

 全国で初めてスクリーニングを始めた倉敷成人病センター(倉敷市)小児科の御牧信義部長は「早期療育を受けられなければ、言語や社会性の発達が遅れる二次、三次障害を引き起こす。事業存続は、就職の可能性を広げるなど、将来の社会的自立に欠かせない」と話している。

(2008年01月13日 更新)

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