おいしく食べて楽しく話そう―味覚・嗅覚・音声・嚥下(えんげ)の障害 最新の医療

川崎医科大学総合医療センターが開催した第8回開院記念市民公開講座。「おいしく食べて楽しく話そう―味覚・嗅覚・音声・嚥下の障害 最新の医療」をテーマに3人の医師らが講演。大勢の人々が熱心に聞いた=7月15日、川﨑祐宣記念ホール

秋定健副院長・耳鼻咽喉科部長

安永圭一郎リハビリテーションセンター言語聴覚士

宇野雅子耳鼻咽喉科医長

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第8回開院記念市民公開講座が7月15日、センター内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。同病院の秋定健副院長・耳鼻咽喉科部長、リハビリテーションセンターの安永圭一郎言語聴覚士、耳鼻咽喉科の宇野雅子医長の3人が「おいしく食べて楽しく話そう―味覚・嗅覚・音声・嚥下(えんげ)の障害 最新の医療」をテーマに講演した。

副院長・耳鼻咽喉科部長 秋定健
味がない/匂いがない 食事や漢方による治療


 ヒトの感覚には触覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚があります。「おいしく食べる」ためには、この五感の中で食物の味(味覚)と匂い(嗅覚)、そして歯ごたえ・舌ざわり(触覚)がとても重要です。のどごしは後でお話しする嚥下に関係します。また基本の味には甘味、旨味(うまみ)、苦味、塩味、酸味があります。さらに匂いによって風味がでます。

 ここでは味覚障害、嗅覚障害の原因と治療についてお話しします。

 味がなくなる原因には降圧薬などによる薬剤性や、鉄、亜鉛、ビタミンA・B2・B6・B12の欠乏、口腔(こうくう)乾燥症、糖尿病などの全身疾患、心因性、耳鼻咽喉科手術(中耳炎・扁桃(へんとう)炎・喉頭疾患)がありますが、特に亜鉛欠乏が重要です。亜鉛が欠乏すると味覚異常だけでなく体力が落ちる、傷が治りにくい、食欲低下、白内障、免疫異常、うつ病、認知症にもなります。

 亜鉛は普通に食事をしていれば不足しませんが、インスタント食品やジャンクフードの過剰摂取、極端なダイエットで欠乏します。亜鉛を多く含む食品は緑茶、抹茶、牛肉、ウナギ、チーズ、卵黄、レバー、牡蠣(カキ)、ノリやワカメ、コンブといった海草類、納豆、そば、ごま、アーモンドなどです。治療では、亜鉛を多く含有する胃薬のポラプレジンク(商品名プロマック)を処方します。漢方では半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、六君子湯(りっくんしとう)をお出しします。

 匂いがなくなる原因はアレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎(特に好酸球性副鼻腔炎)、鼻中隔彎曲(わんきょく)症、感冒(かぜ)、頭部外傷、糖尿病・肝障害・腎不全などの全身疾患、抗腫瘍薬・降圧薬による薬剤性、心因性などです。最近はパーキンソン病やアルツハイマー型認知症の始まりの症状としても重要と考えられています。

 慢性副鼻腔炎や鼻中隔彎曲症は1週間入院の上、内視鏡下鼻・副鼻腔手術で匂いも改善します。副鼻腔炎手術後も含め感冒、頭部外傷などの神経性嗅覚障害ではステロイドホルモンの点鼻、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味帰脾湯(かみきひとう)などの漢方薬で根気よく治療します。

声が出ない/飲み込めない リハビリテーションや手術による治療

 声帯(声門)を動かす筋肉は五つあります。開く筋肉は一つだけで、閉じる筋肉が三つ、緊張させる筋肉が一つです。これらの筋肉が一つでも欠けると正常な動きが損なわれます。

 声が出なくなる、声がれの原因には、発声過多による声帯ポリープや声帯結節、咽頭肉芽腫、声帯溝症、声帯の動きが悪くなる声帯麻痺(まひ)、腫瘍(乳頭腫、喉頭がん、下咽頭がん)、加齢に伴う声帯萎縮、痙攣(けいれん)性発声障害、声帯に異常のない機能性発声障害(心因性を含む)などがあります。

 腫瘍以外の疾患では声のリハビリテーションである「音声治療」により改善を図ります。言語聴覚士が担当し、リラクゼーション、あくび・ため息法、プッシング法などを行います。手術は声帯ポリープ・声帯結節、声帯麻痺、加齢に伴う声帯萎縮、痙攣性発声障害などが適応となります。

 一方、飲み込みが悪くなる原因には脳血管障害(梗塞、出血)、頭頸部がんの治療前後(手術、放射線)、パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患、心因性などがあります。さらに声帯麻痺や嚥下反射低下に伴う誤嚥によって肺炎を招きます。

 嚥下障害の治療においては耳鼻咽喉科医、リハビリテーション科医、歯科医、言語聴覚士、管理栄養士、理学療法士などによるチームアプローチが行われています。さまざまな嚥下リハビリテーションを実施しますが、改善しない場合、ご相談の上、嚥下機能改善手術を行います。喉頭挙上術、輪状咽頭筋切断術などがあります。また誤嚥性肺炎を繰り返す方には誤嚥防止手術(喉頭気管分離術、気管食道吻合(ふんごう)術など)を行います。

食べるってどういうこと? 摂食・嚥下障害とは
リハビリテーションセンター言語聴覚士 安永圭一郎


 摂食嚥下障害とは、飲み込むことの障害です。食べ物を口まで運んで、かんで、飲み込むまでの食事行動に問題が生じているわけです。どのような危険性があるのかというと、食物や水分が気管に入ってしまう誤嚥です。誤嚥は、誤嚥性肺炎の原因になります。摂食嚥下障害の原因は、脳血管障害や加齢、認知症、高次脳機能障害などがあります。

 嚥下の過程は「先行期」「準備期」「口腔(こうくう)期」「咽頭期」「食道期」の5段階に分かれています。

 先行期は目の前にある食べ物の形や量、温度などを認識し、どれくらいの量をどのように食べれば良いのか、食べ物を口へ運ぶ条件を決定する段階です。ここに影響するのは、食べ物を認識するための認知機能が必要ですから意識の障害や高次脳機能障害です。

 準備期は、口に入れた食べ物を咀嚼(そしゃく)して細かくし、唾液と混ぜ合わせながら飲み込みやすい形にしていく段階です。ここで問題が出る要因には、歯がない場合や麻痺(まひ)がある、といったことが挙げられます。

 次に生じるのが、口の中の圧を高めて、えいやっと食べ物をのどの奥に送り込む運動で口腔期といいます。また、ゴックンといういわゆる嚥下そのものを咽頭期といいます。これがうまくいかないと「飲み込みにくい」「むせる」と訴えることになります。安全に飲み込むためには、のどの軟骨が十分に(指1本分)上がることと0・5秒以内で食物を食道に運ぶ速さが要求されます。

 そして最後は食道期で、食べ物を食道から胃へと送りこみます。障害としては飲み込んだ後の逆流や胸焼けなどがあります。

 これらの運動は加齢、炎症や脳の疾病、低栄養など、さまざまな要因で影響を受けます。先行期から食道期の問題はそれぞれの期に差はあれど、誤嚥性肺炎の危険をはらんでいます。

「鼻とのど」のがん 早期発見と最新の治療
耳鼻咽喉科医長 宇野雅子


 鼻は呼吸や嗅覚など、のどは呼吸、摂食嚥下、音声言語などの人間が生きるために必須の機能を担っています。脳や脊髄などを除く、首から上のがんを頭頸部がんと総称します。これらの部位に発生するがんは健康診断の対象にはなっていません。症状が出たときには進行がんであることも少なくありません。早期発見のために、次のような症状が気になるときには耳鼻咽喉科を受診しましょう。

 【鼻の症状】長期間にわたって血の混じった鼻汁が出たり、鼻づまり、とくに片側だけの場合に鼻腔(びくう)がんや副鼻腔がんが疑われます。目が近くにあるので物が二重に見える複視が起こることもあります。鼻腔を前鼻鏡や内視鏡で観察することで診断できることもありますが、CTやMRIなどの画像検査を行うことで診断がより確実になります。

 【のどの症状】のどが痛い、飲み込みにくい、のどの違和感、声がかすれるなどの症状が続く時にはがんが発見されることがあります。首が腫れることもあります。飲酒や喫煙はリスクファクターです。最近では上部消化管内視鏡検査で、のどのがんが偶然見つかることも多くなっています。この場合はほとんどが早期がんで発見されるので、適切な治療をすることで予後は良好です。

 最新の治療は治療効果の向上だけでなく、鼻やのどなどの大切な機能を損なわない、体に優しい手術を目指しています。これまでは頸部を切開して行っていたのどの手術ですが、内視鏡をはじめとする機器の進歩により、口からがんを切除することもできるようになりました。放射線治療も技術の進歩により、病変へ正確に照射しながら、近くにある正常臓器への放射線を低減し、副作用を回避する強度変調放射線治療が開発されました。

(2017年08月07日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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