いつまでもよく見える人生のために―市民のための『眼の病気』講座―

目の病気をテーマに川崎医科大総合医療センターが開催した第11回開院記念市民公開講座。眼科の4人が視力を保つための治療法などを解説した=10月21日、川﨑祐宣記念ホール

長田祐佳眼科視能訓練士

長谷部聡眼科部長

小橋理栄眼科医師

森澤伸眼科医師

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第11回開院記念市民公開講座が10月21日、センター内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。「いつまでもよく見える人生のために―市民のための『眼の病気』講座―」をテーマに、同病院の長田祐佳眼科視能訓練士、長谷部聡眼科部長、小橋理栄眼科医師、森澤伸眼科医師の4人が講演した。

弱視ってなに?―早期発見の必要性―
眼科視能訓練士 長田祐佳


 乳幼児期は目の発達にとって非常に重要な時期です。1歳半ごろが視覚刺激に最も反応し8歳までに視覚機能の基盤が形成されます。弱視とは子どものころに眼鏡を掛けても視力が出ない病気のことをいいます。

 弱視の原因として、遠視、近視、乱視、不同視といった強い屈折異常や斜視、先天白内障やまぶたが極端に下がっている眼瞼下垂(がんけんかすい)といった形態覚遮断などがあります。これら視機能の発達を妨げる原因があると、鮮明な像を脳の視覚中枢に伝えることができず、弱視になりやすいのです。二つの目で見た物を脳で一つに合わせて3Dのような立体的な物として見る能力の発達にも影響が出ます。

 屈折異常が原因となる弱視は、両目とも同程度の屈折異常があり、視力差がほとんどない屈折異常弱視と、不同視といって左右の屈折値に差があるため、強い屈折異常がある目の視力が出ない不同視弱視があります。斜視があっても、左右交代で見ているような場合は弱視になりにくいのですが、常に片方の目だけで見ている場合は斜視弱視となります。

 生まれつき水晶体内のレンズが濁っている先天白内障は光が網膜に届きにくく、形態覚遮断弱視となります。水晶体を入れ替える手術をしてから弱視の治療をします。眼瞼下垂はまぶたを上げる手術をしてから治療をしますが、屈折異常や斜視の場合と比べ、治療効果は薄いです。

 こうした異常を視力検査が可能になる3歳児健診で発見することが重要です。治療は眼鏡を掛けることから始めます。視力が向上しなければ良い方の目をパッチで隠したり、良い方の目の調節機能をまひさせる目薬を差したりして、弱視の目を使う訓練をします。

 自己流で訓練をすると、良い方の目の視力が悪化する恐れがあります。眼科医の指導を受けながら正しい訓練をしてください。

学童期の近視進行と予防
眼科部長 長谷部聡


 近視とは、角膜から網膜までの眼球の長さを指す眼軸が伸びた状態をいいます。近視になると網膜に病的変化が起こり、成人になってから黄斑変性症、網膜剥離、緑内障など失明につながる病気にかかるリスクが高くなります。

 眼鏡、コンタクトレンズ、レーシックなどで近視を矯正することができますが、失明につながる合併症を予防する効果はありません。学童期に眼軸の伸びをいかに食い止めるかは、眼科医にとって重要な研究テーマなのです。

 近視は遺伝的要因が大きく、近くで物を見る時間が長く、逆に野外での活動が少ないほど、近視になりやすいことが海外の疫学調査で証明されています。普段の生活で、本は顔から遠ざけて読み、晴れた日には外で遊ぶように心掛けてください。

 私たちは2002年から06年にかけ、境目のない遠近両用眼鏡を使った近視進行予防の国内初の研究を行いました。その結果は、遠近両用眼鏡の近視抑制効果は15%で、残念ながら期待したほどの効果はないことが分かりました。

 最近注目されているのが、弱視などの治療に使うアトロピンという点眼液による近視抑制効果の研究です。アトロピンにはある程度の近視抑制効果があることは分かっていたのですが、日差しへの感受性が強くなったり手元が見えにくくなったりする副作用の恐れがあり、子どもには使えないと考えられていました。しかし、百倍に薄めて使用すると副作用がなくなり、60%の近視抑制効果が得られたという研究成果が海外で発表されました。わが国でもその有効性を確認する必要があります。

 当院では、0・01%のアトロピンを使って中等度から強度近視の小学生を対象に近視予防トライアルを始めます。効果を約束する確立された治療ではありませんが、関心のある方はご参加をお願いします。

糖尿病網膜症とその治療
眼科医師 小橋理栄


 糖尿病では、高い血糖が続くことで目の奥にある網膜に張り巡らされた毛細血管が傷み、糖尿病網膜症を発症します。糖尿病網膜症は、単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症と三つの段階を経て進行します。

 初期の単純網膜症では網膜に血管の瘤(こぶ)や出血が現れます。治療は定期的な眼科受診と血糖コントロールが中心となります。

 さらに高血糖が続くと、毛細血管が詰まってきて増殖前網膜症に進みます。増殖前網膜症の多くの場合、光凝固術というレーザー治療が必要になります。しかし、この時期は自覚症状に乏しく、治療のタイミングを逃せば、新生血管(正常でないもろい血管が新たに硝子体に向かって生えてくる)が生じる重症な増殖網膜症に進行します。

 増殖網膜症では、可能なら網膜光凝固術を行いますが、硝子体出血や網膜剥離を起こせば硝子体手術が必要になります。この段階まで進行すると、治療をしても日常生活に必要な視力を維持できないこともありますし、失明に至ることもあります。

 また、硝子体出血や網膜剥離とは別に、糖尿病黄斑浮腫を生じると視力低下を生じます。黄斑は網膜の中心にあり、物を見るために最も重要な部分で、ここにむくみを生じた状態を黄斑浮腫といいます。初期の単純網膜症の段階でも起こることがあり、糖尿病の患者さんの視力低下の主な原因の一つです。毛細血管瘤(りゅう)への光凝固術、ステロイドテノン嚢(のう)下注射、抗VEGF硝子体注射、硝子体手術などから、患者さんの状態に応じて最良の治療を選択します。

 糖尿病網膜症はかなり進行するまで気付かないことがあり、早期発見、早期治療が大切です。糖尿病や糖尿病が疑われる人は目の症状がなくても、治療が遅れないよう、定期的に眼科を受診し眼底検査を受けましょう。

白内障とその治療
眼科医師 森澤伸


 人の目はよくカメラに例えられます。水晶体はカメラのレンズに当たり、その奥に、カメラでいうとフィルムの役割をしている網膜という神経でできた薄い膜があり、見た物はそこに映ります。水晶体の働きは、光を網膜に届けることとピントを合わせることです。無色透明の水晶体が濁った状態となるのが白内障です。

 白内障は早ければ40歳代から発症し、80歳を超えるとほとんどの人が白内障の状態といえます。白内障は治療方法が確立しており、放置さえしなければ基本的には失明しません。しかし、一度発症すると薬では治りません。薬剤は発症を予防するか、初期の段階での進行を抑制することはできますが、最終的には手術をする以外にありません。

 白内障の手術は国内で非常に多く行われています。手術では濁った水晶体を取り除いて人工の水晶体を挿入します。現在は入院を必要としない日帰り手術が普及しており、患者さんの負担は軽くなっています。

 白内障は進行しても基本的には痛みがありません。初期の段階ではあまり自覚症状がなく、気付きにくいのです。進行すると視界が暗くなったり、白っぽくかすんで見えたり、まぶしく見えたりします。特に夜間に強い光を見た場合はまぶしく見える場合があります。視力も低下するのですが、眼鏡やコンタクトレンズを替えても矯正できません。

 片方の目が見えにくくても、もう片方の目に問題がなければ生活できるので、なかなか受診しない人が多いのが現実です。特に、加齢性の白内障は進行が緩やかなので、気付いた時にはもはや手術以外の選択肢がないことが多いのです。

 ごく初期に発見できれば薬剤で進行を予防したり、手術を先に延ばしたりすることができます。心身共になるべく負担が少なく済むよう、定期的な受診を心掛けてください。

(2017年11月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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