アピアランスケア 医療者と美容関係者らがサポート

脱毛後、ウィッグを使ってどのように印象が変わるか、デモンストレーションする山岡さん(奥)

深松紘子・岡山大学病院皮膚科医師

 がんになってもおしゃれや外出の楽しみを諦めたくない―。抗がん剤や放射線治療の副作用で頭髪が抜けたり、肌や爪が変色したりと、自身のアピアランス(外見)の変化にショックを受ける患者は少なくない。かつては「治療上やむを得ない」とされたが、患者にとってはQOL(生活の質)の低下につながり、人目につくのを恐れてひきこもってしまうなど、大きな問題だ。最近、医療者と美容関係者らが協力し、ウィッグ(かつら)や化粧などで外見をケア、サポートする取り組みが広がり始めた。患者の精神的な苦痛を和らげ、治療に立ち向かう意欲を引き出す効果も期待されている。

ウィッグで前向き 社会とつながる

 「抜け毛を隠すためではなく、ヘアスタイルを変えておしゃれに『装う』ためにウィッグを使ってみましょう」

 昨年11月、岡山大学病院腫瘍センターが岡山市内で開いた講演会「がん患者さんのためのアピアランスケア~もっとあなたらしく輝くために」。一般社団法人ヘアウェアビューティープログラム(HWBP、岡山市中区国富)の山岡純三代表理事(49)は、がん治療に伴う脱毛に悩む女性たちに呼び掛けた。

 HWBPはがん患者からアピアランスについての相談を受け、医療用ウィッグの紹介などに取り組む。山岡さんは同病院内にあるヘアサロンのマネジャー。日本対がん協会などと協力して全国各地に出向き、さまざまながん患者の悩みに接している。

 この日は素材によるウィッグの違いなどを説明し、ショート、ミディアム、ロングといったウィッグのタイプによってその人の印象がどのように変わるのか、実際に試着してもらった。

 モデルを務めたのは、卵巣がんで2016年夏から抗がん剤治療を受け、脱毛を経験した山田みどりさん(57)=同市北区。脱毛時には「ひどく落ち込み、誰にも会いたくなくなった。自分が社会から切り離された気がした」と振り返った。

 山岡さんに勧められたウィッグをつけることで「どこに買い物に行こうか、どんなおいしいものを食べようか」と思えるようになり、一気に気分が晴れた。治療にも前向きになった山田さんは「ウィッグが私と社会をつなげてくれた」と、笑顔で体験談を語った。

 岡山大学病院皮膚科の深松紘子医師は、アピアランスが変化する原因や対処法のエビデンス(根拠)を解説した。資生堂ジャパン岡山オフィスの担当者は、化粧水やクリームなどの使い方、メーキャップ法などを具体的にアドバイスし、患者らが聞き入っていた。

 同病院は院内にアピアランスケアの専門外来を開設している。一般公開の講演会を開いたのは初めて。腫瘍センターの田端雅弘センター長は「アピアランスケアは単に見た目を整えることにとどまらない。患者ががん治療に前向きになることで、治療効果そのものも変わってくるだろう」と、重要性を強調していた。

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 2人に1人ががんになる時代。それは同時に、がんと付き合いながら、その人らしく「生きる」ことができる時代になったことを意味する。がん患者の治療・療養生活を支え、社会参加をバックアップする医療者や支援者の取り組みを報告する。

アドバイス

岡山大学病院皮膚科 深松紘子医師 脱毛軽減に頭皮冷却も


 医療者側のアピアランスケアに対する取り組みは日が浅く、確実に推奨できる治療法や対処法はまだ少ない。専門医として講演した岡山大学病院皮膚科の深松紘子医師のアドバイスを紹介する。

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 放射線皮膚炎は放射線治療の際、照射部位の皮膚が日焼けしたように赤くなったり、かゆくなったり、乾燥したりする。ひどくなると腫れや傷も生じる。

 対策としては、保湿剤やステロイドなどを用い、傷は洗浄してドレッシング材(創傷被覆材)で保護する。シャワーがしみる場合は生理的食塩水を使うとよい。自宅で手当てする時は、ぬるま湯500ミリリットルに小さじ1弱の塩を混ぜて代用できる。

 抗がん剤治療でもろくなった爪は、爪切りよりも爪やすりを使う。マニキュアや保湿剤の使用も勧められる。爪の変色はマニキュアやネイルチップ(つけ爪)でカムフラージュしてほしい。タキサン系抗がん剤による爪変化は、手を冷たくしておく医療用の冷却手袋で予防効果が得られたというデータがある。

 脱毛は個人差があるが、抗がん剤治療開始から1~3週間で抜け、治療終了後2、3カ月で再び発毛が始まるのが一般的なサイクル。予防や症状の軽減には、血流を減らして抗がん剤の影響を軽くする頭皮冷却が勧められている。

 皮膚の色素沈着の予防や治療は、現状ではなかなかいい方法がない。メーキャップでカバーすることが必要だろう。

 分子標的薬による皮膚障害のうち、にきびのようなざ瘡様(そうよう)発疹にはステロイドや抗菌薬、皮膚が乾いてはがれるなどの乾皮症には保湿剤やステロイド、腫れたり水疱(すいほう)ができたりする手足症候群には保湿剤が使われる。爪の縁に炎症が生じる爪囲炎(そういえん)の対策にはステロイドなどがある。

サポートガイド

 岡山大学病院アピアランスサポート外来 外来棟4階腫瘍センターに開設。予約制で、平日の午前9時半~10時と午後3時~3時半。国立がん研究センター(東京)の専門研修を受けた看護師4人が、治療中も安心して過ごせるよう、日常のケアの方法をアドバイスしたり、悩みを聞いたりする。問い合わせは腫瘍センター(086―235―6968)。

 ヘアウェアビューティープログラム(HWBP) 美容師を対象に、アピアランスケアの技術や知識、カウンセリング法などを習得する講座を開催し、資格認定している。脱毛に悩む患者たちに、ウィッグを試着してもらう体験会も各地で開いている。問い合わせはフリーダイヤル0120―966965。

(2018年02月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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