(5)高齢者に優しい糖尿病治療 岡山西大寺病院副理事長 小林敬子
■糖尿病とは
インスリンの作用が十分でないためブドウ糖が有効に使われず、血糖値が高くなっている状態のことです。膵臓(すいぞう)の細胞が何らかの原因で壊されることで、インスリンがつくられなくなり、糖尿病になります。3500年前の古代エジプトの処方集である医学書「エーベルス・パピルス」には、「多尿で喉の渇きの激しくなる病気」という現代の糖尿病と同じ症状の記述があると言われています。
1922年、カナダのトロント大学で研究を続けていたフレデリック・バンティングと医学生のチャールズ・ベストが、イヌの膵臓から血糖値を低下させる物質を発見しました。これがインスリンでした。糖尿病は古代からあった病気でしたが、原因が解明され、インスリンによる治療法が確立したのは最近になってからです。
■糖尿病は国民病
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2016年)によると、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、12・1%(男性16・3%、女性9・3%)と国民の約8人に1人、「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12・1%(男性12・2%、女性12・1%)です。糖尿病及びその予備軍を合わせると、24・2%となり、約4人に1人ということになります(グラフ参照)。国民病と言われるのもうなずけます。
■診断
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー=国際基準値)が6・5%以上の場合、また、以下の(1)(2)(3)のいずれか一つが認められる場合に糖尿病と診断されます。
(1)朝の空腹時血糖値が126以上(2)75グラム経口ブドウ糖負荷試験で2時間血糖値が200以上(3)時間に関係なく測定した血糖値が200以上
心配な方はかかりつけ医に相談してみてください。
■治療法
糖尿病は一度なってしまうと治りませんが、「糖尿病予備群」の段階ならまだ間に合います。自分の状態に合わせて、治療の3本柱である「食事療法」「運動療法」「薬物療法」を行えば、健康な人と何ら変わらない生活を送ることができます。正しい知識をもち、上手に糖尿病と付き合っていくことが大事です。
糖尿病の治療法について、表1にまとめました。食事療法・運動療法を基本に、適切な薬物療法を取り入れましょう。生涯にわたり、食事療法・運動療法で生活習慣を改善し続ける必要があります。
■高齢者糖尿病患者の注意点
高齢者糖尿病は、糖尿病でない人と比べて、認知症、身体機能の低下、転倒、うつなどの老年症候群を約2倍起こしやすいと言われています。従って、家族や社会のサポートが必要です。サポートが不足している場合は、内服薬やインスリン治療をできるだけ単純化するような工夫が必要となります。高齢者は低血糖を起こしやすく、服薬も少量から開始することが原則です。
また、食事療法でも、高齢者が1100キロカロリー以下の極端なエネルギー制限をするのは、低栄養や命の危険につながることがあるので注意が必要です。運動療法が伴わない減量は筋肉量の減少を招き、逆にADL(activities of daily livingの略で、日常生活動作と訳されます)の悪化を招くことがあります。
高齢者糖尿病の診療ガイドラインでは、合併症予防のための目標はHbA1cが7・0%未満ですが、治療の強化が難しい場合の目標は8・0%未満となっています。
高齢者糖尿病のコントロールの指標を表2に示します。治療目標は、年齢、罹病(りびょう)期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、認知機能や基本的ADL(食事や着替えなど)、手段的ADL(買い物や金銭管理など複雑な動作)、併存疾患なども考慮して、個別に定めます。
◇
岡山西大寺病院(086―943―2211)
こばやし・けいこ 岡山芳泉高校卒、川崎医科大学大学院医学研究科修了。医学博士。
インスリンの作用が十分でないためブドウ糖が有効に使われず、血糖値が高くなっている状態のことです。膵臓(すいぞう)の細胞が何らかの原因で壊されることで、インスリンがつくられなくなり、糖尿病になります。3500年前の古代エジプトの処方集である医学書「エーベルス・パピルス」には、「多尿で喉の渇きの激しくなる病気」という現代の糖尿病と同じ症状の記述があると言われています。
1922年、カナダのトロント大学で研究を続けていたフレデリック・バンティングと医学生のチャールズ・ベストが、イヌの膵臓から血糖値を低下させる物質を発見しました。これがインスリンでした。糖尿病は古代からあった病気でしたが、原因が解明され、インスリンによる治療法が確立したのは最近になってからです。
■糖尿病は国民病
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2016年)によると、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、12・1%(男性16・3%、女性9・3%)と国民の約8人に1人、「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12・1%(男性12・2%、女性12・1%)です。糖尿病及びその予備軍を合わせると、24・2%となり、約4人に1人ということになります(グラフ参照)。国民病と言われるのもうなずけます。
■診断
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー=国際基準値)が6・5%以上の場合、また、以下の(1)(2)(3)のいずれか一つが認められる場合に糖尿病と診断されます。
(1)朝の空腹時血糖値が126以上(2)75グラム経口ブドウ糖負荷試験で2時間血糖値が200以上(3)時間に関係なく測定した血糖値が200以上
心配な方はかかりつけ医に相談してみてください。
■治療法
糖尿病は一度なってしまうと治りませんが、「糖尿病予備群」の段階ならまだ間に合います。自分の状態に合わせて、治療の3本柱である「食事療法」「運動療法」「薬物療法」を行えば、健康な人と何ら変わらない生活を送ることができます。正しい知識をもち、上手に糖尿病と付き合っていくことが大事です。
糖尿病の治療法について、表1にまとめました。食事療法・運動療法を基本に、適切な薬物療法を取り入れましょう。生涯にわたり、食事療法・運動療法で生活習慣を改善し続ける必要があります。
■高齢者糖尿病患者の注意点
高齢者糖尿病は、糖尿病でない人と比べて、認知症、身体機能の低下、転倒、うつなどの老年症候群を約2倍起こしやすいと言われています。従って、家族や社会のサポートが必要です。サポートが不足している場合は、内服薬やインスリン治療をできるだけ単純化するような工夫が必要となります。高齢者は低血糖を起こしやすく、服薬も少量から開始することが原則です。
また、食事療法でも、高齢者が1100キロカロリー以下の極端なエネルギー制限をするのは、低栄養や命の危険につながることがあるので注意が必要です。運動療法が伴わない減量は筋肉量の減少を招き、逆にADL(activities of daily livingの略で、日常生活動作と訳されます)の悪化を招くことがあります。
高齢者糖尿病の診療ガイドラインでは、合併症予防のための目標はHbA1cが7・0%未満ですが、治療の強化が難しい場合の目標は8・0%未満となっています。
高齢者糖尿病のコントロールの指標を表2に示します。治療目標は、年齢、罹病(りびょう)期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、認知機能や基本的ADL(食事や着替えなど)、手段的ADL(買い物や金銭管理など複雑な動作)、併存疾患なども考慮して、個別に定めます。
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岡山西大寺病院(086―943―2211)
こばやし・けいこ 岡山芳泉高校卒、川崎医科大学大学院医学研究科修了。医学博士。
(2018年03月05日 更新)
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