消化管の腹腔鏡手術 岡山市立市民病院 佃和憲外科部長

佃和憲外科部長

大腸がんなど消化管の腹腔鏡手術を数多く手掛け、技術向上のための研さんを怠らない佃医師(左)

腹腔鏡手術の経験が豊富で、後進の指導、育成にも当たっている佃医師(左)=岡山市立市民病院提供

正直、正確に情報伝える

 岡山市立市民病院の外科を率いる佃医師は消化器外科、中でも大腸外科を専門とする。体の負担が軽い腹腔鏡(ふくくうきょう)手術のベテランで、大腸がんの集学的治療にも精通する。特に患者のQOL(生活の質)に気を配っている。

 消化器外科は消化管の悪性腫瘍をはじめ、急性胆のう炎、急性虫垂炎、腸閉塞などさまざまな疾患を扱う。2015年5月に開院した新市民病院は、24時間365日あらゆる症状の患者を受け入れる「岡山ER(救急外来)」を柱の一つに掲げており、消化器外科でも緊急手術に対応することが求められている。

 良性疾患も悪性疾患も、腹部手術の9割以上は開腹せず、腹腔鏡手術で行っている。へその近くに小さな穴を開け、腹腔鏡を通す直径1・2センチの筒を挿入。二酸化炭素ガスを充填(じゅうてん)しておなかを膨らませ、別の筒から電気メスなどを入れる。ビデオスコープを通してモニターに腹腔内の映像が映し出され、術者はそれを見ながら病巣を取り除く。

 手術時間は胆のう摘出が1時間半、虫垂切除、鼠径(そけい)ヘルニアなら1時間、胃がん、大腸がんは4~6時間程度かかる。

 患者にとっては傷が小さいため痛みが少なく、腸管を空気にさらさないため、術後間もなく食事や運動が再開できる。入院期間も短く、早期の社会復帰が可能なことが利点となる。

 特に高齢者は寝たきりの状態が長引くと回復が遅くなるため、佃医師はなるべく腹腔鏡手術を勧める。「回復が早く、早期に退院されることは、医療者にとってもうれしい」と言う。

 岡山赤十字病院などで臨床経験を積み、これまでに500例程度の腹腔鏡手術を手掛けた。岡山大学病院で講師を務めていたが、実績を買われ、昨年10月、新市民病院に移った。

 患者に接する際に心掛けているのは、常に正直であること。悪性疾患の場合、患者にとって不都合で、知りたくない情報もある。だが「患者さんが適切に判断し、治療法を決定するには、本当のこと、正しい情報が知らされなければならない」と意を定め、あくまで正直に、正確に伝える。患者と家族、医療者が一体となり、最良の治療に向けて努力するためだ。

 大腸がん治療は手術だけの時代から、抗がん剤を使った集学的治療に変わってきている。特に転移のある進行がんに対しては、手術と抗がん剤治療のどちらを先に行うか、腹腔鏡と開腹手術のどちらを選ぶのか、抗がん剤の組み合わせなど、治療はより複雑になっている。日進月歩の新しい治療法の情報を得るため、学会や研究会への参加にも努めている。

 市民病院は29の診療科、400床を擁し、地域医療で重要な役割を担う。佃医師は「敷居が低く、気軽に受診・相談でき、高度な医療も提供できる存在でありたい」と言う。外科医を目指す若き医師が減っていることを憂い、「技術だけでなく、幅広い知識と考え方を備えた医師を育てたい」と人材確保、後進の育成にも意を注ぐ。

 腹腔鏡手術は術中のモニター画像や動画を保存できる。大勢の専門医が集まる学会では、互いに手術の画像を見て検証し、研さんを積む。「腹腔鏡は情報化時代にふさわしい治療法で、技術全体が向上している。今後ますます発展することは間違いない」と、さらに熟練の腕を磨くことを誓っている。

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 岡山市立市民病院(岡山市北区北長瀬表町3丁目20の1、086―737―3000)

 つくだ・かずのり 香川県立高松高校、岡山大学医学部卒。寺岡記念病院(福山市)、岡山赤十字病院、岡山大学病院などを経て、2017年10月から岡山市立市民病院外科部長。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本乳癌学会乳腺専門医など。50歳。

(2018年04月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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