第1回 乳がん―早く見つけて命と乳房を守ろう―

女性のがんで最も多い乳がんをテーマに、早期発見につなげる自己検診法や最新の治療法を紹介した第1回川崎学園市民公開講座=4月21日、くらしき健康福祉プラザ

園尾博司病院長

紅林淳一教授

戎谷昭吾准教授

井上雅子看護主任

 健康寿命の延伸など地域の医療・保健・福祉の課題に取り組む川崎学園(倉敷市松島)が、包括連携協定を結んでいる倉敷市と共催する連続講座「川崎学園市民公開講座」が開講した。4月21日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた初回は、女性のかかるがんで最も多く、増え続けている乳がんをテーマに取り上げた。川崎医科大学附属病院の病院長、教授、看護師ら4人が講師を務め、早期発見の重要性、最新の治療法、乳房再建手術などについて解説した。

川崎医科大学附属病院長 園尾博司
乳がんの予防と早期発見―増える乳がんに立ち向かう―


 乳がんは女性のがんの中で罹患(りかん)数が一番多く、生涯の間に11人に1人の女性が乳がんになり、年間約9万人がかかっています。40歳代から50歳代が最も罹患率が高く、近年60歳代以上の患者さんも増えています。乳がんで亡くなる人は年間約1万4千人で、女性のがんの中で第5位ですが、年齢別に見ると30歳から64歳まではトップとなっており、若い人は特に恐れるべきがんです。

 乳がんの20人に1人が遺伝性と言われており、家族に乳がんにかかった人がいる場合は若い時から要注意です。また、出産経験なし、高年齢での初産、授乳経験なし、高身長、閉経後の肥満などが危険因子です。一般的な予防法として、運動、肥満防止なども大切ですが、最大の予防は検診を受けることです。

 乳がん発見のきっかけは、自己発見が55%で最も多く、検診での発見は3人に1人程度です。外来で見つかる乳がんは、9割が無痛性の「しこり」で、残りの1割が「しこりを触れず」、乳頭からの血性分泌と乳頭のただれがあります。一方、検診で見つかる乳がんは、手に触れない小さい「しこり」や「微細な石灰化」で分かることが多く、早期のものが多いのが特徴です。

 「しこり」の大きさが2センチ以下の乳がんは早期であり、9割方治りますが、3センチを超えると乳房温存ができなくなり、脇のリンパ節も全部とらなければなりません。また、大きくなるほど術後に肺や肝臓、骨などに転移する頻度が増え、治癒が困難となります。

 市町村の検診では、40歳以上の女性はマンモグラフィー(乳房エックス線検査)を2年に1回受けるのが標準ですが、岡山県では毎年のマンモグラフィーと視触診を併用しています。40歳代のマンモグラフィー検診では、3割の乳がんが高濃度乳腺に隠れて見逃されてしまうからです。

 市町村検診の対象にならない30歳代の人は、ご自分で検診センターや人間ドックで超音波検査を受けることをお勧めします。また、自己検診を毎月行っている人は、早期に近い状態で乳がんを発見できます。

 お母さんは家庭の灯(あか)りです。乳がん検診と毎月の自己検診を行い、ご家族のためにも命と乳房を守ってください。

乳がん治療の最新知識
乳腺甲状腺外科学教授、乳腺甲状腺外科部長 紅林淳一


 乳がんの早期発見を目指した検診の充実や、日本乳癌(にゅうがん)学会が認定する「乳腺専門医」の養成が進み、早期乳がんの発見率が高まっています。専門的な診療体制も整備され、過去20年余り乳がんの治療成績は改善してきました。また、乳がん治療の進歩も治療成績の向上に貢献しています。

 乳房は女性のシンボルとされ、治療に伴う乳房の喪失は、心と体に大きな負担となります。その負担を軽くしようと、乳がん手術は過去30年余りの間に大きな変貌を遂げてきました。まず行われたのは「乳房温存術」(乳房の部分切除とその後の放射線療法)の普及です。2007年前後には約6割の患者さんに乳房温存術が適応されるようになりましたが、その後は頭打ちとなっています。

 最近増加しているのは、「乳房切除後の同時乳房再建術」です。以前の手術では、腋窩(えきか)(脇の下)のリンパ節郭清がほぼ全例に行われてきました。しかし、術後の後遺症として2割近くの患者さんで「上肢のリンパ浮腫」(腕のむくみ)や腋窩の違和感が発生していました。現在は「センチネル(門番)リンパ節生検」により、70%余りの患者さんはリンパ節郭清を回避することが可能です。

 乳がんはがんの中でも最も基礎研究や臨床試験が積極的に行われ、さまざまな作用メカニズムを有する薬剤の開発が進んでいます。「サブタイプ分類」(乳がんの性格分類)や「エビデンス」(試験結果に基づいた科学的根拠)を参考に、一人ひとりに合わせた「個別化治療」が行われています。さらに最近、遺伝子解析に基づいた「遺伝性乳がん・卵巣がん」の診療や「遺伝子プロファイル検査」による治療選択が可能となってきています。

 日々進歩する乳がん治療は、患者さんにより優しい、個々を大切にする医療をもたらしています。

わかりやすい乳房再建術
形成外科学准教授、形成外科・美容外科副部長 戎谷昭吾


 乳がん手術により、乳房のすべてを切除してしまうと、患者さんは乳房を失った喪失感が強くなります。失われた乳房を再建することは、私たち形成外科医にとっても重要な手術の一つです。

 乳房再建術は、手術を行うタイミングや術式によって分類されます。

 タイミングでは、乳がん切除と同時に再建を行う一次再建と、乳がん手術後に再建を行う二次再建に分かれます。一次再建は手術回数が少なく、喪失感が小さいという利点があります。乳腺外科医と形成外科医の連携が不可欠です。二次再建の場合は乳がん治療に専念できますが、喪失感は大きくなります。

 術式では、患者さん自身の体の一部を使って再建する自家再建と、ティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)とブレストインプラント(シリコン製人工乳房)を用いて再建する方法があります。これらの手術はすべて健康保険の適応です。特にブレストインプラントを用いた再建術は、2013年7月から保険適応となった新しい治療法です。

 自家再建の場合、患者さんのおなかや背中から組織を採取することが多いのですが、手術時間や入院期間が長くなること、また組織を取ったところにも傷が残ってしまうことが欠点です。それに対し、ブレストインプラントを用いた再建術は、手術時間や入院期間が短く、乳がん切除の傷のみで手術できます。しかし、ブレストインプラントは体にとって異物ですので、創部感染やインプラント損傷の可能性は否定できません。手術回数が増えてしまうことも欠点です。

 それぞれの方法に長所と短所があり、患者さんは自分に一番合った方法を選択していただく必要があります。そのためにも、乳房再建術に対する正しい知識を、多くの方々に認識・理解していただくことが重要になります。

自分でも見つけられる自己検診のやり方
川崎医科大学附属病院看護部看護主任 井上雅子


 乳がんは増加し続けていますが、早期に発見し適切な治療を行えば、良好な経過が期待できます。

 早期発見のためには、定期的な乳がん検診と月に一度の自己検診が決め手になります。乳がんは自分で発見できるがんです。発見状況をみても、自己検診での発見が半数以上を占め、乳がん検診で発見されるより多くなっています。

 一方、推奨されているように自己検診を毎月実施している人の率は、いろいろな統計調査をみても1割に届きません。自己検診をしていない理由としては、「やり方が分からない」「自分で触って分かるの?」「(検診するのを)忘れる」などさまざまです。自己検診は自分の体や乳房の変調に気づくための大切なきっかけになります。ぜひ取り組んでほしいと思います。

 今回の公開講座では、園尾病院長が監修した自己検診法を撮影した動画を上映し、川崎医療福祉大学医療福祉デザイン学科の学生が作成したイラストを交え、分かりやすく工夫しています。自分の体は自分で守る時代です。正しい自己検診法を身につけ、実践につなげましょう。自己検診の方法やチェックリストは、当院健康診断センターのホームページ「保健師からのアドバイス」からダウンロードできます。

 女性は家事や育児、仕事に忙しく、自分の健康管理や検診を後回しにしてしまいがちです。自分だけは大丈夫と考えていると、後から後悔することになりかねません。ご家族やあなたの大切な人たちのためにも、月に一度の自己検診で命と乳房を守ってください。

(2018年05月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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