(4)脳卒中 岡山中央病院脳神経外科科長 平野一宏

 脳卒中は脳の血管が原因で起こる病気の総称で、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が含まれます。

 ●「急に手足が動かなくなった」=脳梗塞

 「急に手足に力が入らなくなった」という患者さんが受診したら、いつから、どの手足に症状が出たのか尋ねて、すぐに頭部CTかMRIの検査を行います。

 2005年からtPAという血栓を溶かす薬を急性期脳梗塞に使用できるようになりました。発症から4・5時間以内の患者さんに投与できます。診察で持病や内服薬を調べ、血液検査と画像診断を行い、血栓溶解剤を使用してはいけない状態がないかを確認してから、tPAを開始しなければなりません。時間との競争になります。

 残念なのは、「朝、手足が動きにくいのに気づいて昼まで様子をみていたけれど、よくならないので来ました」など、様子をみているうちに4・5時間を過ぎてしまった患者さんがかなりおられることです。4・5時間を過ぎるとtPAを投与できません。急にどちらかの手足が動かなくなったり、ろれつが回らなくなったり、ふらついて歩けなくなったら、お薬手帳を持って受診してください。お薬手帳は薬だけでなく、持病やかかりつけ医を知る手がかりになります。

 たとえば、不整脈の治療薬や抗凝固薬を飲んでいる方は、心臓の中にできた血の塊(血栓)が脳に行く動脈に詰まる病気(心原性脳塞栓症)の可能性を考えます。この病気は内頸(ないけい)動脈や中大脳動脈といった太い動脈に起こることが多く、tPA治療だけでなく、経皮的血管内血栓回収療法や、脳の腫れが強い場合は減圧開頭術などの手術が必要になる場合もあります。

 ●「急に動かなくなった手足がしばらくしたら動くようになった」=一過性脳虚血発作

 「食事中に右手が動かなくなり箸が落ちたが、10分すると動くようになった」という方が受診されると、一過性脳虚血発作と診断して、すぐ頭部CTやMRI検査などを行います。

 一過性脳虚血発作のうち約2割の方が3カ月以内に脳卒中を発症するというデータがあり、脳卒中予備軍と考えられるからです。手足の麻痺(まひ)のほかに、言葉が出ない・理解できない失語症(しつごしょう)、ろれつが回らない構音(こうおん)障害、片方の目が見えなくなる一過性黒内障(こくないしょう)などの症状があります。

 脳に血流を送る動脈に小さな血栓が詰まったり、血圧の低下のため脳に行く血流が少なくなることで症状が起こるため、頸部超音波検査、MRA、3D―CTA、脳血管撮影などによる脳血管の検査や、心電図、心臓超音波検査など心臓の検査を行います。

 治療は血圧管理や抗血小板薬の投与など脳血流を保つ治療を行います。写真のように動脈に細いところが見つかったり、不整脈や心臓の病気が原因だったりする場合は、その治療を行います。

 ●「再び脳卒中にならないためにはどうしたらいいですか?」=脳卒中慢性期

 この質問には、いつも「大切なのは血圧です」とお答えします。脳卒中で入院した患者さんやご家族から「高血圧といわれたが治療を受けていなかった」「血圧を下げる薬を飲んでも何も変わらないので、服用をやめていた」と聞くことがあるからです。

 脳卒中の大きな原因である動脈硬化を進めないため高血圧・糖尿病・高脂血症があれば、その治療を続けることが大切です。そのためには、気軽に相談できるかかりつけ医を持つことをお勧めします。脳卒中予防のための10カ条を表に示しました。

 脳卒中の慢性期には、麻痺した手足の筋肉が緊張する痙縮(けいしゅく)という状態になり、服の脱ぎ着や歩行が難しくなったり、痛みが出たりすることがあります。そのような患者さんには、ボツリヌス毒素の注射で筋肉を和らげ、生活しやすくする治療も行っています(イラスト参照)。

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 岡山中央病院(086―252―3221)

 ひらの・かずひろ 川崎医科大学付属高校、川崎医科大学卒。川崎医科大学付属病院勤務を経て、2014年に岡山中央病院脳神経外科へ赴任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。

(2018年05月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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