(5)認知症 岡山中央病院脳神経外科科長 平野一宏

 2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると見込まれています。岡山中央病院では、認知機能検査の後、血液検査、頭部CT、MRI、脳血流SPECT、心筋シンチグラフィーなどの検査と併せて認知症診療を行っています。特に手術や薬で治る可能性のある認知症を見逃さないようにしています。

 ●「急に物忘れが進行した」=脳腫瘍

 「最近、急に物忘れが進んだ」と言う患者さんが受診されたら、必ず頭部CTかMRI検査を行います。徐々にではなく、月・週単位で進行する記憶障害や人格の変化がみられる方には写真上のような脳腫瘍が見つかることがあるからです。

 治療は腫瘍摘出術が第一選択ですが、持病で手術ができない方は、当院の「放射線がん治療センター」で放射線治療を検討します。

 ●「歩きにくくなり、物忘れが多くなった」=特発性正常圧水頭症

 「歩きが遅くなった。よく転ぶ」「物忘れが多い。意欲がなくなった」「尿が漏れる。トイレに間に合わない」と言われる方が受診されたら、特発性正常圧水頭症を疑い、頭部CTやMRI検査を行います。この病気は脳脊髄液の流れが悪くなり、写真中のようにミッキーマウスの耳の形に見える脳室が大きくなり、脳が内側から圧迫されるためにさまざまな症状が出ます。高齢者に多い病気です。通常、歩行障害→認知機能低下→尿失禁の順で症状が出現します。

 検査は腰に針を刺して脳脊髄液を吸引する髄液タップテストを行います。テスト後に症状が良くなればシャント手術を行います。頭蓋内で流れにくくなった脳脊髄液を、チューブを通しておなか(腹腔(ふくくう))に流す手術です。当院では腰と腹腔をつなぐLP(腰椎―腹腔)シャント術を行っています。

 ●「物忘れが激しい」「元気がなくなった」=慢性硬膜下血腫

 お年寄りに多い慢性硬膜下血腫は、物忘れや性格の変化という症状で発症することもあり、頭部CTやMRIで診断できます。写真下のように両側に慢性硬膜下血腫ができると認知機能低下や意欲低下、さらに歩行障害がみられることがあります。これらの症状は局所麻酔で頭蓋骨に百円玉くらいの穴を開けて血腫を吸引する手術(穿頭術(せんとうじゅつ))でよくなります。

 ●「物忘れがある」「体がだるい」「やる気が出ない」=ビタミンB群欠乏

 ビタミンB群は神経機能を保つのに必要なビタミンです。B1は神経細胞がブドウ糖を利用するのを助け、B12は神経線維を正常に保ち、葉酸(B9)はDNA合成を介して神経細胞を維持し、B6は神経伝達物質の合成に関わっています。ビタミンB群が不足すると意識障害や認知機能低下、けいれんを起こすことがあります。また、B12や葉酸が不足すると増加するホモシスティンというアミノ酸は、脳梗塞やアルツハイマー型認知症のリスクを高めるといわれています。

 ビタミンB群の不足は胃切除後やアルコールを大量に飲む人に多いとされていますが、一人暮らしの高齢者、肉を食べる機会が少ない人にも多くみられます。B1やB12が加齢とともに低下することや、B12は野菜にほとんど含まれず、肉類や乳製品に多く含まれることが関係しています。当科の診察では、血液検査でB12が50ピコグラム/ミリリットル未満と極度に低下していた方は全員75歳以上でした。

 ビタミンB群が不足している患者さんには、食事指導や薬による補充を行いますが、早期に補充しないと症状の回復が難しいと言われています。つまり、普段からの摂取が大切ということです。どうか「野菜と魚」が中心の食事だけでなく「肉類」も食べるバランスの良い食事で、健やかな毎日をお送りください。

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 岡山中央病院(086―252―3221)。

 ひらの・かずひろ 川崎医科大学付属高校、川崎医科大学卒。川崎医科大学付属病院勤務を経て、2014年に岡山中央病院脳神経外科へ赴任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。

(2018年06月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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