(2)街づくり会議・ひまわりカフェ 万成病院多機能型事業所「ひまわり」施設長 田淵泰子

谷万成町内会の前会長のマスカットハウスで開かれた「街づくり会議」では、マスカットの収穫を手伝いながら地域の特産品について学んでいる

バイオリンを弾き語りするシンガーソングライター吉本有里さんを招いたライブコンサートも開催した=今年3月

元シェフの民生委員が講師を務め、一緒にステーキなどを調理する料理教室も人気がある

 ●地域づくりを担って

 万成病院は精神科医療からの地域づくりを目指しています。小林建太郎院長は「統合失調症や認知症を発症しても、一人の住民として生き生きと暮らしていける町へ。そんな町づくりを通じて、精神科医療の質が担保され、時代を担う医療人が育っていく」と話します。町づくりの柱は、(1)教育・啓発の充実「共に生きる社会へ」(2)地域スポーツ支援「元気のある岡山へ」(3)高齢化対策「しなやかにつながる地域へ」―の三つです。

 ●誰もが心安らぐ居場所として

 “地域との架け橋”として10年間開催した地域交流イベント「ひまわりサロン」のバトンを引き継ぎ、新たな取り組みとして、2012年に「街づくり会議・ひまわりカフェ」を立ち上げました。拠点となる通所事業所の開設を準備する中で、最もエネルギーを注いだのが地域との対話でした。

 地元である岡山市北区・谷万成町内会の幹部会議に参加して福祉事業のコンセプトを説明する一方、地域が求めるニーズに耳を傾け続けました。毎月定例で開く「ひまわりカフェ」は、地域の人たちが気軽に立ち寄り、人と人がつながり合い、誰もが心安らぐ居場所をつくりたいという夢を形にしました。地域の皆さんと共に温め続けてきた思いが込められています。

 毎回、町内会長や民生委員の方など地域の皆さんとともに、「谷万成地域を活性化するには」「地域の方が楽しく参画できるサロンとは」などさまざまなテーマで語り合い、ワークショップ形式で華道や絵画、ダンスや吹奏楽、ライブコンサートなどの講座を開いています。

 この「ひまわりカフェ」から誕生した行事に、町内会とひまわりが合同で開く「ひとりひとりの花を咲かせよう! アート展」という作品展があります。会場となる谷万成町内会の公会堂が美術館に変わり、備前焼、水墨画、油絵、パッチワーク、書道、陶芸、詩などの作品を展示します。障がい者の豊かな才能が生み出す「障がい者アート」を発掘し、発信する場であると同時に、町内会の中でも「お隣さんがパッチワークの達人だった」「備前焼の先生だった」といった発見があり、互いに地域間交流を深める機会となっています。

 昨年から、中学生の油絵作品も出品されるようになり、未来の芸術家が羽ばたく期待も膨らんでいます。また、町内のマスカットハウスで栽培方法を教わりながら出荷作業を手伝う農業体験、元シェフの民生委員に手ほどきを受けるステーキやギョーザの料理教室も開かれています。

 障がいのある当事者と地域住民が同じステージで語り合い、笑いの絶えない空間が広がっています。人と人がつながり合い、結び合う。それが日常の光景になりつつある今、幸福は人と人の間にあるものだとしみじみ感じています。

 ●地域福祉拠点のモデルとして

 通所事業所では、谷万成町内会から開設祝いに贈られた掛け時計が時を刻んでいます。来訪者に寄贈のエピソードを紹介すると、皆さん感嘆してくださいます。福祉施設を開設しようとしても、いまだに地元住民の反対で頓挫することが少なくないのが現状だからです。町内会との連携の歴史をお話しする度に、地域の皆さんへ感謝の思いを新たにしています。

 日本は長寿社会となり、町内会も高齢者が中心となって支えています。谷万成地域も高齢化とともに独居の方が増えています。これからの福祉事業所には、福祉サービスや地域コミュニティーの拠点となる使命があり、町づくりの核となる役割を果たす可能性を秘めています。

 今後も、地域の方々の声に耳を傾け、地域に必要とされる福祉拠点として、町づくりの担い手でありたいと思っています。

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 万成病院(086―252―2261)

 たぶち・やすこ 山陽放送アナウンサーとして働いた後にフリーアナウンサーとして独立。西日本放送、岡山シティエフエムなどでキャスターやパーソナリティーを担当した。2003年、万成病院に精神保健福祉士として入職。公益財団法人こころのバリアフリー研究会評議委員。岡山県教育委員会人権教育講師。早島町教育委員会いじめ対策問題協議会委員。岡山大学大学院教育学部修士課程に在学中。

(2018年06月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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