(2)カテーテル治療について 天和会松田病院理事長・院長 松田忠和

図1

図2

図3

図4

画像を確認しながらカテーテルで行う肝動脈塞栓療法の様子

 今回はわが国で最も頻繁に行われる肝細胞がん治療である、肝動脈塞栓(そくせん)療法についてお話しします。

 現在ではほとんどの施設で、肝細胞がんのカテーテル治療は放射線科あるいは内科の医師が行っていると思いますが、私が医師になった頃は、血管を扱うということで外科医の仕事でした。当時のカテーテルは10メートルくらい巻いてあるチューブをアルコールランプであぶって形成したものを使っており、準備もなかなか大変でした。

 カテーテルなどを使い、画像診断法を治療的に応用するといった意味で、1976年に米国の教授が「Interventional Radiology」という総説を発表し、カテーテル治療に対して「IVR(アイブイアール)」という略称が広く用いられるようになりました。

 その後、当時和歌山県立医大教授だった山田龍作先生らにより、世界で初めての肝細胞がんに対する本格的なカテーテル治療の臨床報告があり、治療法として確固とした地位を築いていきました。

 ちょうどその頃、われわれも岡山大学病院第一外科で肝細胞がんの外科治療を開始しており、治療法の一つとしてカテーテル治療に手を染めました。私自身は今も当院でカテーテル治療を続け、年間150例余りの肝動脈塞栓療法を行っています。

 なぜ、カテーテルを用いた肝動脈(化学)塞栓療法(TAE、TACE)が有効なのでしょうか?

 肝臓には肝動脈と門脈(肝臓以外のすべての腹腔(ふくくう)内臓器の静脈)の2本の血管が入っています。通常は門脈75%、肝動脈25%程度の血流比ですが、肝細胞がんは進行すると、図1のように肝動脈に血流を依存し始め、最終的にほぼ100%肝動脈からの血流となります。

 その特徴を利用し、栄養動脈まで挿入したカテーテルから塞栓物質を注入して栄養動脈を詰まらせ、肝細胞がんを壊死(えし)させるのが経カテーテル的肝動脈塞栓術(TAE)です。塞栓物質に抗がん剤をくっつけ、さらに強くがん細胞を攻撃しようとするのが経カテーテル的肝動脈化学塞栓療法(TACE)です(図2参照)。

 この治療はがんが多数ある場合や、がんが巨大で肝臓の予備能が低下して切除手術に耐えられない症例にはよい適応となります。ただし、肝細胞がんは多数の血行路を持っていることが多く、なかなかがんの息の根を止めることが困難なため、1年に何回も治療が必要となる患者さんが多いのが弱点でした。手術やラジオ波治療のように1回の治療で根治できないことが多かったのです。

 しかし、この3~4年間に行った症例では、1回の治療でかなりの効果があり、再治療までの間隔を大きく開けることが可能となりました。

 その要因として、(1)血管造影画像が高精細化し、コーンビームCT搭載の血管造影装置の導入により、正確な担がん区域(がんの存在する肝臓の区域)の同定が容易になった(2)カテーテルを深部の動脈に誘導するガイドワイヤが細くなり、0・018~0・014インチ(=0・5ミリ以内)のレベルで深部到達性が向上した(3)カテーテルが改良され、先端にバルーンがついて逆流させないような工夫(図3)や、動脈の細い分枝でカテーテルも挿入できないとき、奥側をバルーンで閉塞し横穴から目的の担がん区域に塞栓剤を注入する製品(図4)が開発され、治療精度が上がってきた―ことが治療効果の延長に大きく寄与していると考えます。

 肝細胞がんは原発の肝臓から遠隔(肺や骨)に転移しない(=がんが肝臓内にとどまっている)限り、治療法を駆使していけば、根治できなくても長期生存が期待できます。私の患者さんでも、手術、TACE、ラジオ波治療を続け、再発後20年以上健在の方もおられます。諦めず繰り返し頑張ることが大事だと考えています。

     ◇

 天和会松田病院(086―422―3550)

 まつだ・ただかず 倉敷青陵高校、岡山大学医学部卒。水島第一病院勤務などを経て同学部第一外科助手を務め、1985年から天和会松田病院に勤務、2004年に理事長・院長就任。09年に日本対がん協会岡山県支部長感謝状、松岡良明賞受賞。日本肝臓学会肝臓専門医、日本肝胆膵外科学会高度技能指導医、日本消化器外科学会消化器外科指導医など。

(2018年09月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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