(1)新しい糖尿病治療薬について 岡山ろうさい病院内科部長・糖尿病センター長 余財亨介

「世界糖尿病デー」に合わせて毎年、公開講座や血糖測定などのイベントを開催している岡山ろうさい病院の糖尿病サポートチーム

余財亨介内科部長

 現在、世界の糖尿病人口は4億2500万人(2017年)で、1980年に比べ約4倍に増加しています。わが国でも糖尿病が強く疑われる人と可能性が否定できない人を合わせると2千万人(2016年)に達しています。

 糖尿病治療の中心は食事療法、運動療法ですが、それでも血糖が改善できないときは薬物療法を行います。治療薬は現在、7種類の経口血糖降下薬と2種類の注射薬があります。特に数年前からインクレチン関連薬(DPP―4阻害薬、GLP―1受容体作動薬)やSGLT2阻害薬など新しい治療薬が出てきており、選択肢が増えています。

 ●インクレチン関連薬について●

 食事の摂取により、主に十二指腸や小腸から分泌されるインクレチン(GIP、GLP―1)という消化管ホルモンがあります。このホルモンは膵臓に働きかけてインスリン分泌を促し、同時にグルカゴン分泌を抑えますが、血糖値が高くないときはあまり働きません。つまり、インクレチンは血糖値が上がり始めるとそれを下げるように作用し、血糖値が下がっていると下がりすぎないように調節しています。

 インクレチンはDPP―4という酵素によって速やかに分解され、体内での半減期はわずか数分です。このDPP―4の働きを阻害することにより、インクレチンの効果が長続きするように働く薬がDPP―4阻害薬です。

 もう一つのインクレチン関連薬のGLP―1受容体作動薬は、インクレチンGLP―1の構造を少し変えてDPP―4による分解を受けにくくし、膵臓のGLP―1受容体に作用して血糖の改善効果が期待できます。これらのインクレチン関連薬は単独で用いた時は低血糖のリスクが少なく、体重増加も起こしにくいという特徴があります。

 ●SGLT2阻害薬について●

 SGLT2は腎臓の近位尿細管に限定的に存在する「ナトリウム・グルコース共役輸送体」と呼ばれるタンパク質の一種で、グルコース(ブドウ糖)を細胞内に再吸収する役割を担っています。健康な人はグルコースが再吸収されて尿糖は排せつされませんが、高血糖状態ではSGLT2の再吸収能を超えた分のグルコースが尿糖として排せつされます。

 SGLT2阻害薬はSGLT2の働きを阻害することにより、グルコースの再吸収を抑えて尿糖の排せつを増やし、結果的に高血糖が改善されます。この薬のメリットは血糖改善以外に体重減少効果などがあります。作用の仕組みからして、多尿に伴う脱水や尿路感染症などの出現に注意が必要です。一方、最近の大規模臨床研究により、心血管疾患のリスク抑制効果なども認められています。

 現在の薬物療法は個々の病態に応じてさまざまな薬剤の併用などが可能となっており、病態の把握が重要です。患者さんの病気に対する認識や受け止め方などがそれぞれ違うため、糖尿病療養指導が大切になってきます。

 当院では糖尿病看護認定看護師の2人が外来と病棟に所属しており、多職種による糖尿病サポートチームをつくって糖尿病教育で入院する患者さんを指導し、患者会のイベントなどを企画しています。

 世界的に糖尿病患者が増加し、2006年の国連総会で11月14日が「世界糖尿病デー」と認定されました。ブルーサークルをシンボルマークとして、日本をはじめ各国でさまざまなイベントが行われており、当院も14年から院内でイベントを行っています。

 糖尿病は完治する病気ではありませんが、うまく付き合っていくことにより、さまざまな合併症を起こさずに生活していくことができます。糖尿病サポートチームを中心として、今後も糖尿病診療を頑張っていきたいと思います。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 よざい・こうすけ 関西医科大学医学部卒。岡山大学腎免疫内分泌代謝内科学に入局し、香川県三豊総合病院内科を経て2013年4月から岡山ろうさい病院内科に勤務。日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医・研修指導医。医学博士。

(2018年09月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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