川崎医科大学脳神経外科学2 小野成紀教授 神経内視鏡活用の場拡大

小野成紀教授

 ―臨床現場では、総合医療センター(岡山市北区中山下)の脳神経外科部長を務めておられます。どんな疾患を診療していらっしゃいますか。

 脳神経外科は脳外科と略されることもあってか、脳だけが対象だと誤解されがちですが、本来は脊髄や末梢(まっしょう)神経を含む神経系の疾患すべてを診察、治療します。当院では交通事故や外傷による頭部損傷、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞といった脳血管障害、手足のしびれや腰痛、歩行障害などの脊椎・脊髄疾患、さらに脳腫瘍、水頭症、物忘れといった非常に幅広い患者さんを診ています。

 初期から専門高度な治療まで、患者さんの多様なニーズに合わせた医療を総合的に提供しているのが特徴です。手術件数は頭部損傷、脳血管障害、脊椎・脊髄疾患を中心に年間約280件に上ります。

 「24時間いつでも診療を行う」という病院理念にのっとり、積極的に救急も受け入れています。薬による内科的治療を行う脳卒中科などと連携し、急性期の脳血管障害に対応する専用病床「脳卒中ケアユニット(SCU)」(15床)も開設しています。

 ―脳血管障害の治療は、カテーテルを使って切らずに治す血管内治療が広がってきました。高い技術が求められますが、総合医療センター脳神経外科は専門外来として「脳血管内治療外来」を設け、力を入れていますね。

 血管内治療の対象となる病気の一つに、くも膜下出血があります。多くは血管がこぶのように膨らんだ脳動脈瘤(りゅう)が破れることで発症します。出血した場合、3分の1の方が亡くなり、3分の1の方は助かっても後遺症が残り、社会復帰できる方は3分の1にとどまるとされるやっかいな病気です。脳動脈瘤の破裂、あるいはより深刻な再破裂を防ぐことが重要となります。

 血管内治療では、太ももの付け根にある血管から脳まで細いカテーテルを挿入します。その中を通してさらに細くて柔らかいプラチナ製のコイルをこぶの内側に詰め込み、埋めてしまいます。「コイル塞栓(そくせん)術」と呼ばれます。従来は、頭蓋骨を開いてこぶの根元を特殊なクリップでとめて血流を遮断する「開頭クリッピング術」が主流でしたが、より使いやすいコイルの開発など、医療器具の発展とともに低侵襲なコイル塞栓術が増えています。

 とはいえ、何が何でも血管内治療でなければだめということではありません。患者さんの状態を踏まえ、ベストな治療を考えていきます。

 ―教授は神経内視鏡手術のエキスパートでもあります。どのような疾患が対象になるのでしょう。

 神経内視鏡は脳に特化した内視鏡で、近年、精度が高まったことで活用の場が拡大しています。頭蓋骨に数ミリの小さな穴を開けて内視鏡を入れ、頭の中で治療を行ったり、これまで開頭しなければ見られなかった病変をカメラで観察したりすることが可能です。

 例えば、脳室に脳脊髄液(髄液)がたまってしまう水頭症の場合、内視鏡を使って脳室の壁に1カ所穴を開け、髄液の“流出口”を作ってやれば改善できるケースが多くあります。頭に開けた穴から脳室にチューブを入れ、腹腔(ふくくう)まで延ばして液が流れるようにする一般的な手術「シャント術」に比べ、神経内視鏡手術は体への負担が小さくて済みます。チューブを体内に留置する必要がなく、感染症のリスクも格段に低く抑えられます。

 下垂体腫瘍を摘出する際にも内視鏡は有用です。以前は上唇の裏の歯ぐきを切開して取り出す手術を行っていましたが、今は鼻の穴から内視鏡を入れて取ることができます。このほか、脳室にできた腫瘍の生検などにも使います。

 ―脳神経外科には「手足のしびれ・痛み・腰痛外来」という専門外来もありますね。

 老化で骨が変形し、神経を圧迫してしまう脊椎変性疾患、骨粗鬆(そしょう)症による脊椎の圧迫骨折など、脊椎・脊髄疾患は高齢化を背景に増加の一途をたどっています。

 当院には中国四国地方にまだ数人しかいない日本脊髄外科学会認定指導医が在籍しています。豊富な手術経験を持ち学会発表を行っている専門医であり、患者さんは安心して診療を受けていただいています。

 ―これからの目標を教えてください。

 「患者さんのために常にベストの治療を提供する」という一言に尽きます。そのためには、熟練した術者が最先端の機器や道具を使い、最新のテクニックを駆使することが求められます。当科の医師5人は各自の専門性を生かし、脳神経外科領域をもれなくカバーすることができます。今後もさらに体制の充実を図っていきたいと考えています。

 私が医師を志したのは、病気で困っている人を助けたいという思いからです。その“原点”を大切に、若手医師の育成や他の医療機関との連携にも取り組んでいきます。

 おの・しげき 倉敷青陵高校、岡山大学医学部卒。広島市民病院勤務、米国シカゴ大学留学などを経て、2011年に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科講師。翌年から川崎医科大学脳神経外科学2教授、同大学附属川崎病院(現総合医療センター)脳神経外科部長を務める。現在は同センター院長補佐と脳神経センター長も兼務。日本脳神経外科学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医、日本脳卒中学会認定脳卒中専門医、日本小児神経外科学会認定医。51歳。

(2018年09月18日 更新)

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