(2)胃がんにならない、胃がんで命を落とさないために 岡山ろうさい病院腹部外科部長 石崎雅浩

石崎雅浩腹部外科部長

 現在、日本においてがんで死亡する人は年間約37万人で、男性の4人に1人、女性は6人に1人ががんで死亡します(2017年)。臓器別では男女合計で肺、大腸、胃の順に死亡数が多く、また新たにがんと診断された罹患(りかん)数(2014年)では、大腸、胃、肺の順になっています。胃がんで死亡する方は次第に減っていますが、かかる人は2番目に多いという状況です。

 胃は食道と小腸の間に位置する袋状の臓器です。主な役割は食物を一時的に貯蔵し、その食物を消化することです。胃の粘膜から出る胃液と混ぜて粥(かゆ)状にして、吸収を行う小腸に押し出していく働きをします。

 胃がんはその粘膜の細胞ががん細胞になって、増殖することで起こります。がんの原因については、いくつかのリスク要因が指摘されています。中でも、喫煙や食生活などの生活習慣、ヘリコバクターピロリ菌の持続感染などが疑われています。ヘリコバクターピロリ菌に感染した人のすべてが胃がんになるわけではありませんが、現在、除菌治療を受ければ胃がんにかかるリスクが低下するという研究結果が集積されつつあります。

 胃がんの症状は、早い段階ではほとんどありません。がんが進行するにつれて、胃の痛み・不快感・違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振などが出てきますが、これらは胃炎や胃潰瘍の場合でも起こります。

 胃がんの検査については、基本的に胃エックス線検査(バリウム検査)、内視鏡検査などで発見し、最終的には胃カメラでの生検(組織を採取する検査)で確定診断となります(「胃がん診断の流れ」参照)。進行程度などを調べるためにCT検査、PET検査などが行われます。これらにより病期(ステージ)分類が分かり、治療法が決まります(「ステージ別治療法」参照)。

 非常に早期の粘膜内にとどまるがんであれば内視鏡治療(EMR・ESD)、それを超えていても早期がんの範囲であれば多くは腹腔鏡(ふくくうきょう)による胃切除(「胃がんに対する腹腔鏡手術」参照)が行われ、進行がんであれば開腹による胃切除手術が行われることが多いです。しかし、病変の場所や広がりなどにより、胃の切除方法(全摘か一部切除かなど)は異なることがあります。

 また、がんが胃もしくはその周囲のリンパ節にとどまらず、他の臓器や腹膜などに転移しているときは、手術を行わず、化学療法などの治療が行われます。化学療法は、以前は胃がんにあまり効果がないといわれていましたが、近年は効果が期待できる治療薬が次々に開発されています。

 胃がんにならないため、自分でできる最も良い方法は、もしピロリ菌が陽性であれば、薬を内服することによりピロリ菌を除去する除菌治療を受けることです。除菌が必要かどうかは、胃内視鏡で感染の可能性を調べ、ピロリ菌の有無を検査して判定します。特に50歳以上で今まで胃内視鏡検査を受診したことのない方などは、ぜひ検査を受けてみてください。

 胃がんになったとしても命を落とさないようにするには、早期発見が一番重要です。早期がんの状態で見つかれば多くの方は治ります。何か消化器に症状が出ている方などは、一度内視鏡検査を受けることをお勧めします。

 現在働き盛りの方々が胃がんに関して気をつけていただきたいと思うことを述べました。何か気になることがあれば、いつでも私たちにご相談ください。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 いしざき・まさひろ 徳島大学医学部医学科卒。国立病院四国がんセンター、愛媛県立病院を経て2010年より岡山ろうさい病院に勤務。日本消化器外科学会専門医・指導医、日本外科学会専門医・指導医、日本ヘルニア学会評議員。

(2018年10月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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