(6)産後精神障害と児童虐待 岡山市立市民病院産婦人科主任部長 徳毛敬三

徳毛敬三主任部長

 今回は産後精神障害と児童虐待についてお話しします。

 産後は、急激な身体生理機能の変化と分娩(ぶんべん)前後の精神的ストレスや育児ストレスなどが原因となり、精神障害を発症しやすいと言われています。「マタニティーブルー」という言葉を聞かれた方もあると思いますが、産後7~10日以内に認められる一過性の情動障害とされ、通常は治療しなくても改善します。

 その他の精神障害として、産後うつ病・神経症様状態・非定型精神病状態などがあり、大半が産後うつ病です。産後うつ病は約10~15%の方に発生し、軽症から入院が必要な重症まであります。重症のうつ病は自殺につながる恐れがあり、心療内科や精神科など専門施設への紹介が必要となります。

 近年、産後の母親による児童虐待・自殺・育児放棄(ネグレクト)等の悲惨な事件事故の報道が目立っていますが、産後うつ病などの精神障害との関連性が報告されています。

 死亡につながる虐待の多くは、生後1カ月以内に起こっています。特に、望まない妊娠、シングルマザー、DV被害に遭った妊婦、若年の妊婦といった社会的背景に問題を抱えている妊婦は産後の精神障害を発症しやすく、医療・保健・福祉などにまたがる多職種が連携し、社会的・経済的・精神的に困っている妊婦を支援することが重要です。

 社会的には、保健所、児童福祉などを担当する自治体が主体となって連携することが大切です。また、経済的な理由で出産費用が払えない人のために「助産制度」があります。一定の条件を満たせば、無料または少額の負担で出産できる救済制度の対象になります。岡山市では、この制度を利用できる施設は、当院を含め2施設しかありません。

 産後うつ病などの精神障害は早期発見が何より大切で、「エジンバラ産後うつ病調査表」という問診表を用いて診断します。その後、カウンセリングを行い、場合によっては心療内科や精神科に紹介することもあります。授乳等で向精神薬を使用したくない患者さんには漢方薬を投与することもあります。

 現代は核家族の時代です。ご主人が仕事で家にいる時間が少ないなどという状況で、産後の母親は悩みを誰にも相談できず、孤独になりがちです。何よりも孤立させないことが大切ですが「言うは易(やす)く行うは難し」です。実際は、周囲の理解不足や「そのうち良くなるだろう」という判断で相談が遅れたり、精神科への偏見から診療を拒否したりと、早期の診断・治療は難しいのが現状です。

 産後うつ病について多くの方に関心を持っていただき、医療機関や、地域の子育て支援関係者をはじめとする多職種の方が早期に対応し、不幸な事件事故の予防につながることを期待します。

 当院は今後も多職種と連携しながら、社会的・経済的・精神的に困っている妊婦さんを支援するべく努力していきます。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)。

 とくも・けいぞう 久留米大学医学部卒。岡山大学病院、愛媛県立中央病院、高知医療センター、福山医療センター、中国中央病院などの勤務を経て、今年4月から岡山市立市民病院産婦人科主任部長。日本産科婦人科学会専門医、日本がん治療認定機構認定医。

(2018年10月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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