(1)パーキンソン病の外科的治療 倉敷平成病院倉敷ニューロモデュレーションセンターセンター長 上利崇

機能的脳神経外科の手術に取り組む倉敷ニューロモデュレーションセンターの医師たち

上利崇センター長

 機能的脳神経外科とは、脳や脊髄、末梢神経の機能が異常を来すことによって生じる症状に対し、外科的に治療を行う領域のことを言います。「機能的脳神経外科の治療最前線」の連載初回は、パーキンソン病に対する外科的治療をご紹介します。

 パーキンソン病は大脳の下にある中脳(ちゅうのう)の黒質(こくしつ)と呼ばれる場所で、ドパミンを産生する神経細胞が減少するために起こる病気です。ドパミンが減少すると、震え(振戦)、筋肉のこわばり(筋強剛(きんきょうごう))、動作が遅くなる(無動・寡動(かどう))―などの運動症状が生じます。

 現在、日本では千人に1人以上の方がパーキンソン病を患っており、今後、高齢化が進むとともに、さらに患者数が増えると見込まれます。治療の主体は薬物治療で、不足しているドパミンを補うために、L―ドパを中心とした薬剤による治療が行われます。

 パーキンソン病の初期には薬がよく効いて大変すごしやすいのですが、薬物治療を始めて4~5年経過し、長期になると、半数の方は薬の効いていない時間が出てきたり(ウエアリング・オフ現象)、薬が効きすぎて、自分の意思に反して手足や体が勝手に動き出す不随意運動(ジスキネジア)が現れたりします。

 これらの問題症状に対して、薬を工夫して内服してもうまくコントロールできない方、または消化器症状や精神症状などの副作用の出現によって十分な内服ができない方を対象に、外科的治療が検討されます。外科的治療には、脳深部刺激療法(DBS)、定位的脳手術(熱凝固、放射線、超音波)、移植再生療法(iPS細胞をもとにつくられた神経細胞の移植など)があります。

 現在、保険適応がある治療法として一般的なものは、手術で脳深部に植え込んだ電極から電気刺激を与える脳深部刺激療法です。その適応として、パーキンソン病であること(「パーキンソン症候群」は非適応)▽薬物治療ではウエアリング・オフ現象やジスキネジアのコントロールが十分できない▽年齢は70歳以下が望ましい▽重度の認知機能低下、精神症状を合併していない―などの条件があります。

 脳深部刺激療法を開始することで、薬のオフの時間帯が短縮し、振戦、筋強剛、無動・寡動といった運動症状が改善します。薬を完全にやめることはできませんが、内服量は減らすことができ、ジスキネジアが生じにくくなります。

 これらの改善効果は長期間にわたり持続します。症状の改善を維持するためには、手術後も定期的に外来を受診し、刺激の微調整や装置のチェックを受ける必要があります。

 脳深部刺激療法はあくまでも症状を緩和する治療であり、パーキンソン病を治癒したり、病気の進行を止めたりすることはできません。そのため、パーキンソン病の進行とともに治療に抵抗する症状が出現します。体が前方や横に傾く(姿勢異常)▽転倒しやすい(バランス障害)▽すくみ足などの歩行困難▽飲み込みにくく、むせやすい(嚥(えん)下(げ)障害)▽声が出しにくくなる(構音障害)―といった症状が出てくると、薬でも脳深部刺激療法でも治療が困難です。

 パーキンソン病の進行を少しでも食い止めるために、日々の生活で食事、運動、睡眠の良い習慣や、楽しく充実した生活を送ることが重要です。脳深部刺激療法のサポートにより、患者さんは充実した生活を送ることができます。

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 倉敷平成病院(086―427―1111)

 あがり・たかし 広島県出身。岡山大学医学部卒。社会保険広島市民病院、静岡てんかん・神経医療センター、岡山大学病院などを経て、2017年から倉敷平成病院に勤務。医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本てんかん学会専門医・指導医、日本定位・機能神経外科学会機能的定位脳手術技術認定医。

(2018年10月15日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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