(2)ふるえとジストニア 倉敷平成病院倉敷ニューロモデュレーションセンターセンター長 上利崇

ふるえやジストニアの治療で行われる定位的脳手術の様子

 体の一部または全体が自分の意思とは関係なく、規則的または不規則に動くことを不随意(ふずいい)運動といいます。機能的脳神経外科では、薬物療法の効果が乏しい不随意運動症に対して外科的治療によって症状緩和を図ります。今回はふるえやジストニアなどに対する外科的治療を紹介します。

 ふるえ=振戦(しんせん)の原因はさまざまですが、振戦以外に明らかな原因のないものは本態性振戦と呼ばれ、2~10%の方が罹患(りかん)しており、不随意運動症の中で最も頻度が高い病気です。頭部または両側の上肢(手と腕)にみられることが多く、自分の意思とは関係なくリズミカルな振動が生じます。

 振戦が強いと、字が書けなかったり、食事の際に箸やコップをうまく扱えなかったりと、日常生活に支障をきたす場合があります。加齢とともに症状が悪化しやすい傾向がみられます。

 ジストニアは自分の意思とは関係なく、筋肉が異常に収縮する状態です。体の一部に生じるものを局所性ジストニアといい、痙性斜頸(けいせいしゃけい)や書痙(しょけい)といった病気があります。

 痙性斜頸では、左右上下の一定方向に首が傾く、ねじれる、ふるえるなどといった不随意運動が生じます。不自然な頭の位置になるため、首を動かすことに困難を伴います。

 書痙は字を書こうとすると、上肢に力が入って書けなくなります。書字以外の日常動作では、筋の異常収縮はみられません。ある特定の動作を行う際に出現するものを動作特異性ジストニアと呼び、書字以外にもキーボードのタイピングや、楽器の演奏時に出現することがあり、その動作を職業とする専門家にみられることが多いです。薬物治療や、異常収縮する筋肉にボツリヌス毒素の注射を行う治療法があります。

 筋の異常収縮が全身に出現するものを全身性ジストニアといい、体全体に曲がりやねじれが生じ、座る、歩くなどの基本動作が困難になります。原因はいろいろありますが、遺伝性、原因が明確でないもの、薬剤性のものは脳深部刺激療法が有効です。

 これらの病気はいずれも、脳深部にある基底核(きていかく)、視床(ししょう)とよばれる場所で、運動制御のネットワークに異常が起こり、症状が出現すると考えられています。この部位に対して手術を行うことで、症状の改善が期待できます。

 外科的治療には、脳深部刺激療法と熱凝固療法の二つがあります。両側性の症状、全身性の症状に対しては脳深部刺激療法を行います。片側の上肢など、症状が体の一部に限局している場合は熱凝固療法を行うことがあります。

 脳深部刺激療法は体内に刺激装置を植え込み、脳に電気刺激を与えます。症状改善を維持するために刺激の継続が必要となります。機器の性能は年々向上し、治療効果も高くなっています。

 現在、熱凝固療法を行う手段としては、脳に凝固針を挿入する定位的脳手術と、超音波によって熱凝固を行う超音波集束器治療があります。保険診療が認められているのは定位的脳手術のみです。1回または2回の手術により、良好な振戦の抑制が得られます。

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 倉敷平成病院(086―427―1111)

 あがり・たかし 広島県出身。岡山大学医学部卒。社会保険広島市民病院、静岡てんかん・神経医療センター、岡山大学病院などを経て、2017年から倉敷平成病院に勤務。医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本てんかん学会専門医・指導医、日本定位・機能神経外科学会機能的定位脳手術技術認定医。

(2018年11月05日 更新)

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