(3)慢性疼痛の外科的治療 倉敷平成病院倉敷ニューロモデュレーションセンターセンター長 上利崇

脊髄刺激療法の治療装置を埋め込む手術の様子

 痛みは生命の危険を知らせ、身の安全を守るための危険探知感覚として存在し、私たちの生命活動に欠かせない役割を持ちます。ところが、必要以上に長く続いたり、原因がはっきりしなかったりする痛みは、不必要であるばかりか、日常生活に支障をきたしてしまいます。

 一般に3カ月以上継続する痛みを慢性疼痛(とうつう)と呼びます。今回は慢性疼痛に対する外科的治療について紹介します。

 慢性疼痛には、神経自体が圧迫や損傷を受けて起こる「神経障害性疼痛」という痛みがあります。痛み部位が感じにくくなる(知覚鈍麻(どんま))▽少しの痛みでもとても強い痛みに感じる(痛覚過敏)▽痛みではない刺激(触れる、寒冷など)を痛みとして感じる(アロディニア)―などの感覚の異常があり、「電気が走る」「刺す」「焼ける」「しびれる」ような症状が持続的、かつ発作的に出現することが特徴です。

 神経障害性疼痛に対しては、切り傷や打撲、骨折、やけどなどによる痛み(侵害受容性疼痛)に効果がある一般的な痛み止め(非ステロイド性消炎鎮痛薬)は効きません。神経に直接作用する特別な薬を内服する必要があります。

 薬物治療以外では、神経ブロック注射、理学療法などのリハビリテーション、認知行動療法などの心理的な療法があります(「慢性疼痛に対する治療」参照)。これらの治療で十分な効果が得られない場合、脊髄刺激療法という神経刺激療法が適応となります。

 この治療では、脊髄に電気刺激を与え、痛みを引き起こしている神経の異常な興奮を抑えることにより、鎮痛効果を発揮します。

 対象となるのは、外科手術が困難な脊椎・脊髄疾患による神経の痛み(脊柱管狭窄(きょうさく)症、脊椎圧迫骨折など)、複合性局所疼痛症候群、帯状疱疹(たいじょうほうしん)後神経痛、開胸手術後、糖尿病などの末梢(まっしょう)神経の障害、動脈硬化などの血流障害による下肢の痛み、脳卒中(脳出血、脳梗塞)後の痛みなどです(「脊髄刺激療法が有効とされる痛み」参照)。

 治療のために手術を行い、脊髄を包む硬膜(こうまく)の外側の硬膜外腔(がいくう)という場所に治療用の電極を挿入し、体内に刺激装置を植え込みます(「脊髄刺激療法」参照)。手術に先立ち、電極を留置して体外から試験的に刺激を与え、治療効果を予測することが可能です。侵襲度は低く、手術は安全に行えます。

 治療開始後は患者さん自身がリモコンを操作し、痛みを自分でコントロールすることができます。7~8割の方で50%の鎮痛効果が得られています。最近は刺激装置が改良されており、今後さらに鎮痛効果の改善が期待できます。

 慢性疼痛では、一つの治療手段だけでは痛みの完全な消失が得られないことが多く、満足のいく鎮痛に至らない場合があります。患者さんの痛みをなるべく和らげ、生活の質(QOL)を向上できるよう、さまざまな治療法を組み合わせています。

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 倉敷平成病院(086―427―1111)

 あがり・たかし 広島県出身。岡山大学医学部卒。社会保険広島市民病院、静岡てんかん・神経医療センター、岡山大学病院などを経て、2017年から倉敷平成病院に勤務。医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本てんかん学会専門医・指導医、日本定位・機能神経外科学会機能的定位脳手術技術認定医。

(2018年11月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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