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共感広がる「徘徊演劇」 発祥の和気で再演へ

4年ぶりにJR和気駅前で稽古する岡田さん(右)の演技を見守る菅原さん(右から2人目)

 俳優と観客が一緒に街頭を巡り、老いや認知症問題を考える「徘徊(はいかい)演劇」が人気を呼んでいる。岡山県内の劇団が23、24日に発祥地の和気町で4年ぶりに再演する公演チケットは発売初日に売り切れた。高齢者の国際演劇祭で上演されるなど、共感の輪が広がっている。

 徘徊演劇は劇団「Oi(オイ・)BokkeShi(ボッケ・シ)」を主宰する菅原直樹さん(35)=奈義町=と、芝居好きで現在92歳の岡田忠雄さん=岡山市南区=との出会いから生まれた。介護福祉士でもある菅原さんは、認知症を患う同い年の妻を介護する岡田さんの姿から物語を着想し、2015年1月、JR和気駅前の商店街で岡田さんたちと初演。認知症の世界を肌身に感じることができ、演劇人だけでなく福祉関係者にも評価された。

 その後、各地に招かれた菅原さんはワークショップなどで徘徊演劇の意義を伝え、昨年9月、さいたま市で開かれた国際演劇祭「世界ゴールド祭」では、プロの俳優と共に同市内を舞台にしたバージョンを披露した。

 和気での再演は、徘徊演劇の原点に返り、より質の高い作品に仕上げるのが狙い。町の4年間の変化を踏まえ、脚本を書き直した。

 20年ぶりに和気へ戻ってきた青年が、岡田さんが演じる元文房具店主の老人に再会し、認知症で徘徊に出てしまった老人の妻の捜索を引き受ける。観客は出演者と一緒に商店街を歩き、老人と青年の意外な背景や過去を知ることになる。

 1月初旬から始まった稽古で、岡田さんたちは実際に街頭に立ち、せりふや観客の誘導を確認している。

 和気町は近年、移住者が増え、17、18年は転入者が転出者を上回る社会増の状態になった。初演では商店街の寂れぶりが強調されたが、今回は新たにできた移住者の交流施設やカフェも舞台になり、町の変容を反映する。

 初演時、千葉県から和気に移住して間もなかった菅原さんも、移住者を迎える立場になった。「地域での老いとの向き合い方や希望を伝えたい」と意気込む。

 岡田さんの状況も変化した。昨年夏に軽い脳梗塞を起こし、回復したものの、妻の介護は綱渡りになっている。出演は気力の維持にもつながり、「介護者の本当の心理を分かってもらいたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年02月11日 更新)

タグ: 介護高齢者

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