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難病患者の災害対策を 岡山で学会、実態把握を提言

難病患者の実態を把握し、災害時の避難を支援する「個別計画」の必要性を話し合ったシンポジウム=昨年11月、岡山コンベンションセンター

 岡山県などに甚大な被害をもたらした西日本豪雨をはじめ、台風、北海道地震と続発した昨年の自然災害を通じ、独力では避難が困難な「避難行動要支援者」の存在が浮き彫りになった。特に人工呼吸器を装着していたり、人工透析を必要としたりする難病患者は、被災による停電がすなわち生命の危機に直結する。難病医療に携わる専門職の学会も災害時の対策を議論し、行政と医療機関、関連企業が連携して実態を把握する必要性を提言している。

 昨年7月の西日本豪雨では中国電力管内の約19万3千戸、9月の北海道地震では道内全域の約295万戸が停電した。筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病が進行すると、呼吸で働く筋肉が弱り、人工呼吸器が頼りになる。常時電力を必要とする在宅の人工呼吸器装着者は停電で大きな影響を被ったはずだが、そもそもどこで何人の患者が暮らしているのか、正確には分かっていない。

企業と協力し調査

 岡山市で昨年11月に開かれた日本難病医療ネットワーク学会学術集会では、急きょシンポジウム「災害と(神経)難病」をプログラムに加えた。人工呼吸器装着者については、国立病院機構柳井医療センター(山口県柳井市)の宮地隆史副院長が取り上げ、呼吸器の主要取り扱い企業8社と協力して取り組んでいる患者調査を報告した。

 昨年3月末時点で、気管を切開してチューブを挿入している患者が全国で7395人、マスクを装着している患者が1万2114人いた。気管切開患者は停電に備えて外部バッテリーを用意することが強く勧められるが、確保済み患者の比率は都道府県によって最高97・3%、最低54・5%で、地域差が大きいことも明らかになった。

 宮地副院長は「企業の担当者が安否確認のために現地に出向いて二次災害に遭う恐れもある。行政は企業任せにせず、実態を把握して対策に踏み込むべきだ」と訴えた。

情報伝達システム

 人工呼吸器装着者の災害対応モデルとして、宮地副院長は広島大学病院(広島市南区)にある「難病対策センター」の患者登録システムを紹介した。あらかじめ患者・家族から個人情報提供の同意を取り付け、災害発生時に消防、電力会社、受け入れ病院などに情報を伝えるネットワークが整備されている=図参照

 消防は登録患者の電話番号を判別して、スムーズに受け入れ病院に連絡できる。保健所などが訪問して災害対策について指導したり、平時の工事停電でも、電力会社から個別に知らせてもらえたりする。

 難病患者の安全を確保するには、具体的な支援の役割分担などを「個別計画」で定めることが重要になる。センターが事前に同意を取っているため、計画作成を目的にした情報提供もできるが、まだ地元市町との連携が進んでいない。

避難入院受け入れ

 国立病院機構呉医療センター(広島県呉市)の鳥居剛脳神経内科科長は、西日本豪雨の被災時、交通が寸断されて孤立した状況で続けた神経難病患者の診療を振り返った。

 当時、通常は入院に至らない状態の患者も受け入れた。自宅が床上浸水し、薬も流されて強い不安にさいなまれていた患者や、胃ろうで栄養管理している患者が入院。一般の避難所では食事や排せつの介助が困難だった患者は、近隣の病院への入院をあっせんした。

 鳥居科長らは以前から、在宅患者に災害時の避難入院を考慮するよう呼び掛けており、「(福祉施設などを利用する)福祉避難所でも、人工呼吸器装着者のケアまでは難しいのではないか。医療機関が受け入れるべきだろう」と話した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年02月18日 更新)

タグ: 医療・話題

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