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第10回 骨の健康 骨粗しょう症による骨折を防ぐ

福永仁夫学長

曽根照喜教授

脇本敏裕講師

バランス感覚が養える「片足立ち」

寺本房子特任教授

大成和寛講師

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する市民公開講座の第10回が3月9日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。テーマは「骨の健康 骨粗しょう症による骨折を防ぐ」。高齢化の進行で患者が増える中、川崎医科大学、川崎医療福祉大学の専門家が、治療法や予防法について解説した。

骨粗しょう症とはどんな病気 川崎医科大学学長 福永仁夫

 骨粗しょう症は骨の量が減ることで骨内部の構造が粗くなります。患者さんには高齢の女性が多いのが特徴です。女性ホルモンには骨の健康を保つ働きがあり、閉経後、骨量が次第に減るためです。

 日本骨代謝学会の診断基準では、背骨や大腿(だいたい)骨近位部(太ももの付け根)に骨折が見つかったら骨粗しょう症と診断します。骨折がない場合でも、骨密度が若年成人平均値(20~44歳)の70%未満だと治療を開始します。

 骨密度の測定は複数の手法があります。最も信頼性が高いとされているのが「DXA(デキサ=二重エネルギーX線吸収測定法)」。放射線の被ばく量が非常に少なく、さまざまな骨部位の測定が可能です。10分程度で検査も完了します。

 今、この疾患が注目されているのは、高齢化に伴い発症頻度が増加しているからです。特に注意してほしいのが大腿骨近位部の骨折。5年ごとの全国調査(1987~2012年)では、患者数は男性は2・8倍、女性は2・4倍に増加しています。

 骨がもろくなり、骨折を起こしやすくなるというだけでも怖いのですが、一度骨折すると、別の箇所が骨折するなど繰り返す人が多いのが実態です。寝たきりの一因にも挙げられ、QOL(生活の質)の低下にもつながります。診断に必須である骨密度測定法が普及し、新しい治療薬の開発も進んでいます。なるべく早期に診断を受け、治療を始めてほしいと思います。

最新の治療とは 川崎医科大学放射線核医学教授 曽根照喜

 骨には新陳代謝があり、古い骨が壊されて新しい骨に置き換わり、常にしなやかで適度な硬さを保っています。新陳代謝のバランス、すなわち骨の吸収と形成のバランスが崩れると、骨の量が減少し骨が折れやすくなります。

 骨粗しょう症の治療薬には骨の吸収を抑える薬や骨の形成を促す薬があり、骨の代謝状態を考えながら患者さんに合った薬を選択します。吸収を抑える薬は、当初は毎日飲む必要がありましたが、最近では週1回や月1回の薬がよく使われています。さらに注射薬だと、半年や1年に1回注射すれば効果が持続するものもあります。また、1~2年の間、定期的に注射をして骨の形成を促す薬も適宜用いられます。

 治療しないままだと骨折を起こすような患者さんが、薬物治療を続けていたおかげで、10年間骨折を起こさず過ごせたというケースもありました。骨折を防ぐためには薬を継続するのが重要で、3~5年は続けた方がいいでしょう。

 薬には副作用がつきものですが、重篤なものはあまり起きていません。ごくまれにあごの骨が腐るケースがあります。顎骨壊死(えし)と呼ばれるもので、口腔(こうくう)内の細菌が原因で、抜歯などを機に発症し、放置しておくと顔やあごの下からうみが出てきます。薬物治療を続けている人は、デンタルケアも心掛けてください。

「骨を守る」運動 川崎医療福祉大学健康体育学科講師 脇本敏裕

 骨を健康な状態で保つには、幼少期から高い骨密度を獲得しておく、加齢に伴う骨密度の低下をなるべく防ぐ―の2点が大切です。

 高い骨密度にするには身長が伸びる時期に体を動かすことが重要です。重力の刺激を受けると、骨が重力に対抗しようと強くなります。バレーボールのようにジャンプを繰り返す運動は、骨に大きな荷重負荷をかけるため、骨密度を高めることができるのです。

 中年期、高齢期はジャンプ以外にもジョギングのような強い動的負荷運動が効果的ですが、取り組みやすさや安全性を考慮すると歩行運動が最適です。太極拳など軽い動的荷重運動も骨密度を上昇させる効果が期待できます。一方、水泳は体に荷重負荷がかかりにくいため、骨密度を高める効果としては不十分です。

 骨折を防ぐには転倒しないことが一番です。転倒予防を目的とした場合、歩行運動に加え、筋力トレーニングやバランス運動に取り組みましょう。

 簡単に自宅でもできるエクササイズを紹介します。筋力が鍛えられる「椅子スクワット」は骨盤に手を当て、背筋を伸ばして胸を張り、ゆっくり立ち上がります。バランス感覚が養える「片足立ち」は片足を上げ5~10秒間姿勢を維持します。いずれも10回1セットで、2~3セット挑戦してみてください。

骨の栄養、カルシウムだけ? 川崎医療福祉大学臨床栄養学科特任教授 寺本房子

 骨を強くするには、カルシウムが大切なことはご存知だと思います。ただ食事に含まれているカルシウムが骨になるには、腸からのカルシウムの吸収を促進するビタミンDや骨形成に必要なビタミンK、ビタミンC、骨の構造に必要なコラーゲンを作るタンパク質なども重要です。これらの栄養素の摂取量が少ないと丈夫な骨が作れなくなり、骨密度の低下を招くのです。

 カルシウムは、牛乳・乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆・大豆製品など、ビタミンDは魚類、キノコ類、ビタミンKは納豆や小松菜などの緑黄色野菜、ビタミンCは果物や野菜類、タンパク質は肉や魚、卵、大豆製品、牛乳・乳製品に多く含まれています。骨粗しょう症予防にはバランスがよい食事が基本となります。

 また、2017年度の国民健康・栄養調査によると、65歳以上の1日のカルシウムの摂取量は560~580ミリグラムです。650~700ミリグラムを目標にしてほしいと思います。牛乳を1日1杯(カルシウムを約110ミリグラム含む)、追加で飲むようにすればカルシウムを少し多めに摂取できます。

 近年子どもや若い女性、高齢者の血液中のビタミンD不足が指摘されています。カルシウムの吸収や骨の沈着を促すビタミンDは、日光浴により皮膚で合成されるので、30分~1時間程度、戸外での活動(夏季は木陰で)をお勧めします。

「骨を守る」ためにできること 川崎医科大学脊椎・災害整形外科学講師 大成和寛

 日本人の平均寿命は世界トップクラスですが、健康寿命との差は大きく、要介護(寝たきり)人口の多さが問題となっています。

 要介護の原因の約10%を占めているのが骨粗しょう症による骨折です。転倒などで一度骨が折れると、さらに転倒しやすくなり、高い確率で次の骨折が起こります。骨折を予防するには「転倒しない・させない」ことがとても大切です。

 転倒予防は身の回りから始めましょう。骨折した人の多くは屋外より屋内で転んで骨折しています。階段や敷居のみならず、じゅうたんの端につまづく人もいます。じゅうたんやマットの端は固定し、暗い場所には間接照明を設ける、居間の床には物を置かないようにする―といった対策が転倒予防につながります。

 骨折した場合は、骨粗しょう症の治療が必須です。日本の患者は約1280万人(女性980万人、男性300万人)と試算されていますが、実際に治療を受けているのは女性では2割程度と言われています。理由として、自分でも気が付いていない「いつの間にか骨折」の方が多いことが挙げられます。

 転倒・骨折・骨粗しょう症は互いに悪循環を形成し、高齢者を次の骨折へと導きます。転倒を予防して骨折を防ぐ、骨を強くして転倒しても骨折しないように骨粗しょう症を治療する、両方とも大切です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年04月02日 更新)

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