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(4)前立腺がんに対するロボット支援手術(ダヴィンチ) 津山中央病院泌尿器科部長 弓狩一晃

弓狩一晃部長

 ■現状

 国内の前立腺がん患者は増加の一途をたどっています。罹患(りかん)数(推定値)は、2015年から2年連続で男性がんの第1位となりました。男性が生涯に前立腺がんを罹患する確率は9%と、胃がん(11%)、肺がん(10%)に続く3番目に位置付けられています。年齢別では50歳代前半から増加し、70歳代でピークを迎え、高齢者が占める割合は他のがんと比べて高くなっています。

 罹患率増加の一因に急速な高齢化が考えられていますが、その他の要因として、前立腺特異抗原(PSA)による前立腺がん検診の普及も挙げることができます。検診・健診を契機に発見される前立腺がんの割合は年々上昇しています。海外の研究では50~54歳を対象にしたPSA検診で、がんの転移や、死亡率を低下させたとする報告もあり、日本泌尿器科学会でも50歳以上の男性にはPSA検診の受診を推奨しています。

 ■治療の選択肢

 前立腺がんの治療は、(1)手術治療(2)放射線治療(3)内分泌治療(4)抗がん剤治療―に大別されます。前立腺に限局した早期がんでは、手術治療や放射線治療の適応となり、リンパ節転移や遠隔転移のある進行がんや、期待余命が10年未満の症例では内分泌療法や抗がん剤治療が主体となっています。

 前立腺がん手術は、前立腺と精のうを摘出し、ぼうこうと尿道をつないで尿路を再建する前立腺全摘除術を行います。手術の方法は開腹手術、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術、ロボット手術があります。

 ■ロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術

 2012年4月から前立腺がんに対するロボット手術が保険診療として認められ、国内にはすでに約300台の手術用ロボットが導入されています。

 岡山県内にも岡山大学病院をはじめ、県南に6台(5施設)が運用され、18年末に津山中央病院にもロボット支援下手術システム「ダヴィンチX」が導入(図1)されました。19年3月から泌尿器科医と手術室看護師、臨床工学士が主体となったロボット手術チームによる前立腺がんの全摘術が開始されています。

 ロボット手術は、下腹部に小さな穴を数カ所開けて(図2)、直径8ミリのハイビジョン3Dカメラ(図3)を挿入し、多関節機能(図4)と手ブレ防止機能が備わった手術用アームを遠隔操作して行う手術です。術者は拡大された3D画面を見ながらコントローラーを操作します(写真1)。術者の手の動きを縮小してアームに伝える機能(モーションスケーリング機能)(図5)も装備され、精密で安全かつ確実な手術を施行することが可能です。

 治療成績も従来の開腹手術に劣ることなく、より小さな創傷での手術が可能で、出血量も非常に少ない低侵襲な手術です。

 術後の合併症である尿失禁も完全に防ぐことは難しいですが、多くの症例で早期の回復が見込めます。また症例によっては男性機能温存手術も可能で、がんの根治性以外での術後における生活の質も向上することが期待されます。

 ■終わりに

 津山中央病院では、前立腺がんに対して陽子線治療も行っており、ロボット手術とともに先端の治療を選択(ともに保険診療)できる全国でも数少ない総合病院です。県北の方々に、地元で高度な最先端医療を提供できるよう、チーム一丸となり日々研さんを積んでいます。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 ゆかり・かずあき 金光学園高校、帝京大学医学部卒。岡山大学病院、広島市民病院、呉共済病院などを経て、2018年より津山中央病院勤務。日本泌尿器学会専門医、腹腔鏡技術認定医、ダヴィンチ手術認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年04月16日 更新)

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