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(6)地域包括ケア病棟の役割 心臓病センター榊原病院循環器内科部長・地域包括ケア担当部長 川元隆弘

川元隆弘部長

■地域包括ケア病棟

 皆さんは「地域包括ケア病棟」という病棟があるのをご存知でしょうか。

 現在、わが国は65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が25%超という世界一の超高齢化国となっています。こうした中、高齢者が住み慣れた場所で自立した生活を送ることができるよう2013年に厚生労働省より地域包括ケアシステムが提唱されました。「各地域の住民が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられる、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される社会システム」と定義されています。本システムの中で、医療・介護サービスを提供する中核をなすものが地域包括ケア病棟となります。

■役割

 これまで病院の役割は主に病気を治すことでした。しかし高齢化の進んだわが国では、病気が治癒しても必ずしも自宅退院できるとは限らないという問題がでてきています。地域包括ケア病棟では病気が治癒した後、自宅退院までの橋渡しをさせていただきます。

 そのため医療的サービスはもちろん、リハビリで身体的活動性を高めたり、公共サービスの調整や施設のあっせんをしたりするなど、内容は多岐にわたります。医師、看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、薬剤師、管理栄養士、介護福祉士といった多職種が協働し、提供に当たります。

■対象となる入院の種類

 いずれの入院も在宅・施設復帰が可能と思われ、急性期医療は必要のない方になります。地域包括病棟には最長で60日間の入院が可能です。

ポストアキュート入院

 急性期病院での入院治療により、病状は安定したが、在宅復帰のためにリハビリが必要であったり、介護サービスの調整などの環境整備が必要な病客様

サブアキュート入院

 自宅や介護施設などで療養中の病客様で、発熱、感染、脱水、外傷といった比較的軽症な疾病で、入院加療もしくは経過観察入院が必要な病客様

リハビリテーション入院

 心疾患、整形疾患、脳神経疾患などで日常の活動度が低下し、病状は安定しているがリハビリが必要な病客様

 また介護者の疲労や不在のため、一時的に入院が必要な場合(レスパイト入院)にもご利用いただけます。いずれの場合でも入院後すぐに在宅復帰支援計画を作成し、関係する多職種が協力して在宅復帰を目指していきます。

■当院の取り組み

 昨年4月より地域包括ケア病棟を再開して以降、月当たり60人程度の病客様が入院されています。

 内訳は院内急性期病棟からの転棟が36%、眼科手術や糖尿病などの予定入院が49%、他院からの転院が5%、緊急入院/リハビリ・レスパイト目的が10%となっています。

 入院後は専従のPT(理学療法士)とともに在宅復帰を目指してリハビリを行っていきますが、リハビリの目標は病客様ごとに異なりますので、入院時に病客様、ご家族様より希望をうかがいます。手術や入院をきっかけとして活動度が低下している場合がほとんどですので、主に入院前の活動度を参考にします。トイレに歩いて行きたい、入浴を自宅でしたい、自力で食事を取りたい―といった具体的な要望を聞き、それに向けリハビリ計画を立てていきます。もちろんPTとのリハビリだけではなく、それを生かしてご自身でもリハビリすることで、効果的に活動度を上げることが可能となります。

 並行して介護認定の申請、介護サービスの調整、自宅改修の提案など、希望に合わせて専従の医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)が自宅復帰のお手伝いをします。例えば、介護認定がまだなので申請したい▽介護認定の区分変更を行いたい▽ヘルパーさんに来てもらいたい▽入浴サービスを利用したい―といった要望に対しアドバイスや調整を行います。

 他にも認知機能低下に対する作業療法、嚥下(えんげ)機能低下に対する嚥下訓練、病状に応じた栄養指導・管理、床ずれや手術創などの治癒を目指した介入なども行っています。

 こうした多くの部門が協働し自宅復帰を目指していきますが、60日間という限られた期間では、困難な場合もあります。そうした場合でも施設入所まで含めて提案させていただき、なるべく要望に近い形での社会復帰を目指しています。

 地域包括ケア病棟は、高齢者の皆さまが自宅で生活できるよう、医療・介護面からの総合的なサポートを行うところであるといえるでしょう。今後も高齢化社会の進展とともに、その重要性はさらに増していくものと思われます。

     ◇

 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)。

 かわもと・たかひろ 京都大学医学部卒。神戸市立中央市民病院、川崎医科大学附属病院、鹿児島徳洲会病院などを経て、2017年より心臓病センター榊原病院勤務。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年05月20日 更新)

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