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(5)卵巣癌について 岡山市立市民病院 産婦人科主任部長 徳毛敬三

徳毛敬三産婦人科主任部長 

 卵巣癌(がん)は子宮癌と違い、おなかの中の臓器なので、直接細胞診や組織診断ができないことや、出血などの自覚症状に乏しいため、診断がつかないことが多く、早期発見の困難な癌の一つです。腹部膨満などの症状が出るころにはすでに進行しており、半数以上の方が、3期以上の進行した状態で発見されます=写真。産婦人科はお産以外で受診することが少なく、診断が遅れがちです。最近太ってきたかなと思ったら、婦人科受診を考えてみてください。

 卵巣癌は死亡数、罹患(りかん)数ともに年々増加傾向にあり、婦人科悪性腫瘍の中で最も死亡数が多いです。発生要因としては、妊娠・出産数の減少により排卵する回数が多くなることや高たんぱく、高脂肪食などの食生活の変化が関連していると言われています。

 子宮頸(けい)癌や体癌に比べ、卵巣癌は組織系が多いのも特徴の一つで二十数種類あります=。卵巣腫瘍は、悪性腫瘍と良性腫瘍の間で境界悪性腫瘍に分類され、それぞれ発生組織ごとに、表層上皮性・間質性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞性腫瘍、その他の腫瘍の四つに分類されています。

 癌の治療は、手術、放射線治療、抗がん剤がありますが、卵巣癌は、手術と抗がん剤が主体です。おなかの中に癌が散らばった卵巣癌では、手術で完全に摘出することは困難で、中には、手術ができないほど進行した状態で見つかることも珍しくありません。手術前に抗がん剤を投与し、手術も複数回することもあります。

 術後の化学療法が重要です。同じ卵巣癌であっても組織型によって、抗がん剤の効き目がずいぶん違います。漿液(しょうえき)性や類内膜腺癌は約8割が有効ですが、明細胞や粘液性腺癌は2割程度です。卵巣癌の抗がん剤は、約20年前からパクリタキセルとカルボプラチンという2種類の抗がん剤を第一選択にしています。副作用は、他の抗がん剤同様、吐き気、脱毛、骨髄抑制などですが、パクリタキセルは筋肉痛、関節痛、しびれなどの副作用もあり、特にしびれは残ってしまうことがあります。

 5年ほど前から、進行症例や再発した症例に対し、新たに分子標的治療薬を追加投与することが可能となりました。卵巣癌に使える分子標的治療薬は2種類あり、遺伝子検査を行い、どちらを使うか選択します。医療がますます高度化・専門化していくなかで、医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなど多職種が協力しチーム医療を行うことが大切です。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 とくも・けいぞう 久留米大学医学部卒。岡山大学病院、愛媛県立中央病院、高知医療センター、福山医療センター、中国中央病院などを経て、2018年4月から岡山市立市民病院産婦人科主任部長。日本産科婦人科学会専門医、日本がん治療認定機構認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年09月16日 更新)

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