文字 

(1)健康寿命と下肢関節疾患 岡山ろうさい病院 人工関節センター部長 遠藤裕介

ナビゲーションを使った全人工股関節置換術

ナビゲーションを使った全人工膝関節置換術

遠藤裕介人工関節センター部長

 長寿による超高齢化社会を迎えたわが国において、昔のように60歳で退職してのんびりと生活をされている方は少なくなっていると思います。農家の方などは引退という言葉はなく、可能な範囲ずっと仕事をされている印象です。現在の日本においては、一億総活躍と言われているように、高齢になっても元気に何らかの形で仕事を継続できることが重要と思われます。そこで注目されるのが健康寿命という概念です。

 健康寿命とは日常生活に支障がなく生活できる年齢のことで、実際の寿命は延びているので10年程度の開きがあります。すなわち、一生を終える前に10年程度は仕事どころか自立した日常生活に支障を来す人が多いということになります。要支援や要介護となる原因をみると、運動器の障害が4分の1程度とされています。

 今回、健康寿命に大きく関わる下肢の変形性関節症(股関節、膝関節)についてお話しさせていただきます。変形性関節症の原因には、体重過多(肥満)、骨形態の異常、関節弛緩(しかん)性、荷重軸の異常(O脚、X脚)、加齢による軟骨変性などがあります。

 初期にはレントゲン画像で関節の隙間(軟骨)は保たれていますが、進行するにつれて狭小化して末期では骨と骨とが接した状態になります。変形性関節症が進行すると痛みが強くなってきて移動能力が低下してくるだけでなく、骨同士が接触すると動きによって関節内に出血したりすることもあり、安静時にも痛みがでるようになります。

 一度軟骨が磨耗してすり減ってしまうと元の軟骨には回復しません。予防としては、加齢による筋力低下を防ぐため、適度な運動を普段から行って、かつ体重が増えすぎないように努力する必要があります。運動や仕事で痛みを感じ改善せず継続したりする場合には、最寄りの整形外科を受診しレントゲン検査などを受けることをお勧めします。

 関節症を発症しても痛みの閾値(いきち)(感じ方)などは個人差があります。まず保存的治療で体重管理や関節周囲の筋力強化、ストレッチなどを行い、対症療法として関節内注射や鎮痛薬の内服なども併用されます。それでも痛みが改善しない場合には手術加療の必要があります。

 人工関節置換術は悪くなった関節を切除してインプラントに置換することで疼痛(とうつう)が改善する手術です。股関節では非常に疼痛が強い患者さんが多いため、除痛効果が高く、手術した当日でも歩行可能になり、喜ばれることが多い手術です。

 股関節、膝関節ともに下肢を支える重要な大関節なので、歩行能力すなわち健康寿命の延長には大きく寄与します。20年で80%以上の生存率という安定した長期成績も報告されるようになっていますが、一方で脱臼や感染などの合併症もあります。すでに筋力が低下して廃用状態になっている▽多量の鎮痛薬を内服し内臓の合併症がある▽移動能力が低下して糖尿病のコントロールが悪くなっている―状態では、より手術リスクが増加しメリットが少なくなります。

 手術を受けないように上手に付き合っていただくのがベストですが、ご家族ともよく相談して本人が希望を持って手術を受けられるようにサポートするように心がけています。当院では、下肢人工関節手術でより正確なインプラントの設置が行えるようにナビゲーションシステムも併用しています。

     ◇

 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 えんどう・ひろすけ 岡山高校、徳島大学医学部卒。岡山大学整形外科に入局。2005年より岡山大学病院勤務。10年から19年まで股関節班主任を務め整形外科講師を経て19年4月1日より現職。スイスBern大学短期留学。整形外科専門医。日本人工関節学会評議員。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年09月16日 更新)

ページトップへ

ページトップへ