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(7)脳腫瘍について―脳腫瘍とともに生きる 岡山市立市民病院脳神経外科主任医長 井上智

井上智脳神経外科主任医長 

 脳腫瘍は、脳にできる腫瘍のことですが、悪性度が低い良性のものから悪性度の高いものまでさまざまあり、大きく分けると脳そのものから発生するものと、他の臓器のがんが脳へ転移してできるものがあります。

 脳そのものから発生した腫瘍では、さらに脳の中から発生する腫瘍(グリオーマ、リンパ腫など)と脳の周辺構造から発生する腫瘍(髄膜腫や神経鞘腫(しょうしゅ)、下垂体腺腫など)に分けられます。

 もし、あなたやあなたの家族が脳腫瘍と診断されることがあったとしても、このようにさまざまな種類の脳腫瘍があります。これらの悪性度を見極めながら、どのような治療法がいいのかを決めていくことになります。治療によって根治できる病気と根治できない病気は異なってくるので、主治医の先生から納得いくまで説明を聞いて、治療法を選択する必要があります。

 治療法の選択肢も、手術治療のみで根治できる腫瘍もあれば、手術を行わずに経過をみることが可能な腫瘍もあります。また、手術治療のほかに放射線治療、化学療法などを組み合わせて治療を行っていく必要があります。

 脳内から発生する腫瘍(グリオーマなど)では、開頭して行う手術治療=写真(上)=が基本となりますが、手術治療のみでは根治が難しいことが多いです。

 脳は人間が考えたり、言葉をしゃべったり、手足を動かす命令を出したりする中枢であり、これらの機能を担う神経が複雑にネットワークを形成しています。神経ネットワークの中に脳腫瘍細胞が発生し、増大、進展していくため、手術治療のみで腫瘍細胞を取り除くことは難しいのです。多くの場合、既存の神経ネットワークの損傷を最小限にとどめながら、腫瘍細胞を減らすように摘出します。

 この手術摘出の際に手助けになるのが手術中の正確な部位を確認できるナビゲーションシステム=写真(下)=や神経活動の障害を確認するモニタリングシステムで、これを活用してできるだけ安全に行います。

 手術治療の後に残存している腫瘍細胞に対しては放射線治療や化学療法(抗がん剤などの薬による治療)を行っていくことになります。しかし、放射線治療や化学療法では腫瘍細胞の増殖を遅らせたり、一時的に弱らせたりすることはできますが、なかなか根絶するには至りません。

 これらの病気を患った患者さんは脳腫瘍とともに生活し、生きていかなければなりません。また、多くの人は脳腫瘍を患ってからもできるだけ今までの生活を継続したいと考えています。

 われわれ脳腫瘍を治療する医療者は、医師だけでなく看護師、リハビリセラピスト、メディカルソーシャルワーカー、地域のかかりつけの医師、ケアマネジャー、訪問看護師などの力を借りて、脳腫瘍の患者さんやご家族と一緒に、いかに「脳腫瘍とともに生きる」かを支えていきたいと考えています。

 当院は公立病院であり、地域医療を担っている病院です。脳腫瘍の患者さんが「脳腫瘍とともに生きる」ために、当院が担える役割が少なからずあると考えています。ぜひ、ご相談いただければと思います。

     ◇

 岡山市立市民病院(086―737―3000)。連載は今回で終わりです。

 いのうえ・さとし 岡山一宮高校、岡山大学医学部卒。岡山川崎病院、香川県立中央病院を経て岡山大学脳神経外科で脳腫瘍の研究に従事し岡山大学医学博士を取得。2008年10月より岡山市立市民病院脳神経外科へ勤務。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中の外科学会技術認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年11月04日 更新)

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