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9 頭部外傷 意識の有無で対応変化

 二歳の男児。午後七時ごろ、高さ五十センチのいすから転落して頭部を打撲しました。すぐ泣いたので母親は様子を見ていました。 嘔吐 ( おうと ) もなく翌日は特に変わりなく元気にしていましたが、夕方五時ごろより頭を押さえて痛がるため心配になり救急外来を受診しました。頭部CT(コンピューター断層撮影)で 後頭蓋窩 ( こうずがいか ) に急性硬膜外血腫が認められ、経過観察入院となりました。安静と点滴で頭痛は消失しました。幸い血腫の広がりは認めず、手術を必要とすることなく経過良好にて一週間後、後遺症なく退院となりました。

   ◇   ◇

 お母さんはとても正しい判断をされました。頭を打って直後にワーッと泣いた場合、直ちに受診する必要は通常ありません。しばらく様子を見て、受診が必要となるのは普段と様子が違う(頭を痛がる、元気が無い、顔色が悪い、ぼうっとする、よく吐く、むずがる、ひきつけが起きる)と感じたときで、それからの受診でも間に合います。

 一方、頭を打って、直後からぐったりして、泣くこともなく気を失うほど強く頭を打った場合には、直ちに受診が必要となります。頭部打撲の程度を判断するときの一番大事なことは、すぐ泣いたかどうか、すなわち意識を失ったかどうかということです。今回は通常ではないことが起こりましたが、適切な判断で事なきを得ました。

 頭部外傷と一口に言っても、受傷の状況、打撲の強さにより、様子を見るだけで何ともないものから、意識を失って生命に危険が及んだり、重度の後遺症を残すものなどいろいろあります。頭を強く打った場合、直後より症状が出ることから、どなたでも直ちに受診することになります。一方、軽い打撲の場合、受診すべきか迷うこともあるのではないでしょうか。迷う原因は軽い打撲の場合で、時として数時間後から症状が出て、取り返しのつかないことになることもあるからです。

 小児の頭部外傷は、成人と区別されなければなりません。成人と比較すると小児では、急性硬膜外血腫の場合、出血源は静脈性が多く動脈性である成人に比べてゆっくり進行することから意識のしっかりしている時間が長い特徴があります。後頭蓋窩の急性硬膜外血腫は乳幼児では軽微な外傷で生じ、軽度意識障害と頭痛だけ示し、診断が遅れることがあります。そこで万一、お子さまが頭を打たれた場合どう対処すべきかお話しします。

 打撲直後はまず、受傷直後すぐ泣き、呼びかけにすぐ反応したかをチェックしてください。すぐ泣いて、いつもと変わらず吐かない場合、まず心配はありません。様子を見ましょう。一方、受傷直後にすぐ泣くことはなく呼んでも応答がない▽応答があってもいつもと様子が違う▽出血があって止まらない▽けいれんがあった▽何回も嘔吐する▽顔色が悪く呼吸がおかしい―などがあれば大急ぎで受診しましょう。一分一秒を争います。出血は清潔なガーゼで傷口をしっかり押さえれば数分でまず止まります。

 家庭で様子を見るときは寝床で静かに休み、風呂には入らず、体をふく程度にとどめます。飲み物は少しずつ飲んでもよいですが、コーラやサイダーなど炭酸飲料は控えましょう。食事は消化の良いものを少量ずつ様子を見て摂取してください。頭を打った後ひと泣きしてから、よく眠りに入りますが、最初の六時間は途中で起こして少なくとも一度は目を覚ますかチェックしましょう。

 頭を打って二十四時間たっても普段と変わりなければ、普通に生活して構いません。数日後急変するとか何年かして後遺症が出ることもありません。様子を見ていて、頭痛や顔色が悪くなるなど普段と何か違うことがあればその時点で迷わず受診しましょう。

 (松本健五・岡山市立市民病院長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年12月10日 更新)

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