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第7回防ぐぞ! 治すぞ! 脳卒中

宇野昌明氏

八木田佳樹氏

松原俊二氏

二宮洋子氏

堀尾佳子氏

繁永美栄子氏

 脳卒中は死因の順位こそ4位だが、寝たきりにつながる病気としては最も多く、3割近くを占める。その予後は、兆候を見逃さず、いかに早く治療を開始するかが鍵を握る。11月9日、くらしき健康福祉プラザ(倉敷市笹沖)で開かれた本年度第7回の川崎学園市民公開講座(川崎学園主催、倉敷市共催)では、「防ぐぞ! 治すぞ! 脳卒中」をテーマに、川崎医科大学・附属病院の講師陣が、進歩している治療法や、再発を防ぐための服薬、生活改善などについて分かりやすく解説した。

座長あいさつ
川崎医科大学脳神経外科学1教授 川崎医科大学附属病院院長補佐・脳神経外科部長 宇野昌明


 脳卒中は日本人の死亡原因の第4位で、かつ寝たきりなる最大の要因です。症状は多彩で、発見や治療が遅れると、症状の改善が困難になります。近年、早期の点滴による血栓の除去やカテーテル治療の発達で、治療開始が早ければ劇的に改善することが報告されています。

 今回は、脳卒中の予防のポイントと最新の治療を専門医2人が解説します。また、予防のための薬や食事について気を付けること、普段どのように生活すべきかを薬剤師、管理栄養士、看護師が話します。

 脳卒中は「Time is brain」。すなわち、時は脳を助ける、時間を無駄にしないことが大切と言われています。すぐに専門治療を受けること、そして何より、普段の生活が一番大きな予防になることを学んでください。

脳卒中予防のポイント
川崎医科大学脳卒中医学教授・附属病院脳卒中科部長 八木田佳樹


 脳卒中は脳血管の異常によってさまざまな神経症状が急に出る疾患の総称で、脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血が主なものです。突然発症し、後遺症が問題となることも多いため、患者本人はもちろんご家族や周りの方々にとってもつらい疾患です。最近は急性期の治療が飛躍的に進歩しており、早期に専門医療機関を受診すれば高い治療効果が期待できます。しかし、発症を予防できればそれに越したことはありません。

 脳卒中発症と関連する疾患や生活習慣などを危険因子といい、これをうまく管理していくことが予防のために重要です。高血圧は全ての病型の発症にかかわるため、その対策が最も重要です。脳梗塞の一部は動脈硬化が原因で発症します。動脈硬化を進行させる高血圧、糖尿病、脂質異常症のほか、喫煙や過度の飲酒も危険因子です。心房細動などの心臓病も原因になります。自己検脈などで脈の乱れを発見したら、医療機関を受診してください。

 危険因子は身近にあり、患者本人の生活習慣と深く関わっています。家庭での血圧測定や健康診断の利用で危険因子を発見し、治療を中断せずに継続することが脳卒中予防につながります。

脳卒中治療の最前線 切る手術・切らない手術
川崎医科大学脳神経外科学1准教授・附属病院脳神経外科副部長 松原俊二


 最近30年間で脳卒中の治療は大きく変わりました。新しい薬の開発や診断機器の発達、脳卒中センターの設置なども貢献していますが、私は外科医としての立場から、新しい手術の方法についてお話しします。

 かつて脳卒中で倒れた人に対しては、頭を切って手術をする方法しかありませんでした。現在では、太ももの付け根の血管から管(カテーテル)を通して行う血管内手術が効果を上げています。代表的なものは、脳の中の出血点を探し出し、その部分のみを金属製コイルで詰めてふさいでしまう「塞栓(そくせん)術」や、詰まった血栓を取り除いて脳血流をよみがえらせる「血栓回収術」です。血栓を取り除く方法は発症後24時間まで有効とされています。何よりできるだけ早い受診が大切です。

 また、顕微鏡を用いて、頭を切って手術する「開頭動脈瘤(どうみゃくりゅう)ネッククリッピング術」も進化をとげ、より精密かつ安全な手法で可能となっています。

 胃カメラと同じように、脳の中に神経内視鏡と呼ばれるカメラを入れて脳の出血を取り除く手術も開発され、成果を上げています。頭蓋骨に小さな穴をあけるだけです。手術時間が短く、傷も小さくて済むなど、高齢者にも優しい方法です。

再発を防ごう お薬と上手につきあうために
川崎医科大学附属病院医療安全管理部 医療安全専従主任薬剤師 二宮洋子


 脳卒中の再発予防は、5大危険因子と言われる高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、不整脈(心房細動)、喫煙の管理がベースになります。脳梗塞の場合は血栓ができるのを予防する治療も行われます。食事などの生活指導とともにいろいろな薬が使われます。それらの薬がどのような働きで再発を予防するのかを理解しましょう。

 再発予防の薬は、自覚症状がほとんどない(痛くもかゆくもない)のに飲み続けなければならないため、だんだん面倒になって適当に減らしたり、自分で選んで飲んだりする方が増えてきます。それが再発につながり、繰り返すたびに後遺症は重くなります。薬の服用は長期戦になりますので、正しく理解し、上手につきあっていきましょう。

 薬について、五つのチェックポイントがあります。(1)薬の名前を知っていますか? (2)薬の働き(飲む目的)を知っていますか? (3)薬の飲み方を守っていますか? (4)注意する副作用を知っていますか? (5)無断で他の薬やサプリメントを飲んでいませんか?

 この機会に、ぜひご自身で振り返ってみてください。

なってからではあなたも家族も大変です!みんなで食事を見直しましょう!
川崎医科大学附属病院栄養部部長補佐 堀尾佳子


 脳卒中になるとさまざまな症状が残り、入院治療を余儀なくされ、社会復帰を阻害する原因となってしまいます。「発症しない」「発症後再発しない」ことが大切です。そのために危険因子の管理が重要です。高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、飲酒、肥満などです。特に、高血圧は脳出血と脳梗塞に共通する最大の危険因子と言われています。一般の方の1日の食塩摂取量の目標は男性8グラム未満、女性7グラム未満ですが、高血圧症の場合は6グラム未満とされます。食塩摂取は減る傾向ですが、まだ目標を達成できていません。

 (1)減塩に気をつけて

 外食回数を減らし、食塩を多く含む食品を避けましょう。うま味、酸味、辛味などを活用しましょう。

 (2)エネルギーの収支バランスを

 食事のエネルギーは「摂取量=消費量」として、体重の維持に気をつけましょう。「間食・ながら食い・早食い・どか食い・飲み過ぎ」などを慎みましょう。

 (3)こまめに水分補給を

 水分が不足すると血液が流れにくくなります。1日1・5~2リットルを目安にしましょう。

 (4)家族と共に生活のリズムを整えましょう

 朝日を浴びて朝食・運動・睡眠のサイクルを守り、健康寿命を延ばしましょう。

日常生活上の注意点
川崎医科大学附属病院看護部 看護副主任(脳卒中リハビリテーション看護認定看護師) 繁永美栄子


 私が新人看護師だった約20年前までは、脳卒中は高齢者の病気と言われていました。近年は40歳代の若い患者さんも増えています。人生100年時代と言われる現代、若くして脳卒中を発症すると、長い期間、脳卒中と付き合うことになります。発症予防や再発予防が重要になっています。

 入院する患者さんの多くが「検診で高血圧と言われたけれど、自覚症状はなく、治療していなかった」「まさか自分が脳卒中になるなんて。まだ大丈夫だと思っていた」と話されます。脳卒中とうまく付き合うためには、脳卒中をよく理解し、危険因子を自己管理することが大切です。

 最大の危険因子である高血圧を管理するため、自宅での血圧測定方法を身につけ、禁煙や肥満の改善につながる運動に取り組むなど、予防につながる生活習慣の見直しについても考えてみてください。

 脳卒中はさまざまな障害が残る疾患です。自身がつらいだけでなく、家族や大切な人たちもつらく悲しい思いをします。発症予防・再発予防は家族や周りの方々の協力も必要です。みんなで声を掛け合って取り組んでいただくことをお願いします。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年12月02日 更新)

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