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(1)腰部脊柱管狭窄症 岡山中央病院整形外科科長 中原啓行

中原啓行整形外科科長 

 今回から脊椎疾患に対する低侵襲手術治療について連載します。まず、腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症に対する治療方法からご紹介します。

 脊柱管はその前面を椎体と椎間板、側面から後面を椎間関節、椎弓、黄色靭帯(じんたい)によって形成しています。その管の中に馬尾神経が入った硬膜管と神経根が通っています。

 腰部脊柱管狭窄症は加齢などが原因で関節・靱帯・椎間板などが変形し、神経が通る管である脊柱管が狭くなることで下肢の神経症状が出る病気です。脊柱管内の神経が慢性的に狭窄を受けている状態に、歩行などの運動負荷がかかることによって下肢の痛みやしびれ、筋力低下が出ます。

 神経症状には神経組織への物理的な圧迫と血行障害が関与しています。典型例では数十メートルまたは数百メートル歩くと下肢痛が出現しますが、立ち止まって腰掛けるなどの脊柱管が広がるような姿勢をとるとすぐに症状が改善します。このような症状を間欠性跛行(はこう)といい、この病気の特徴です。

 治療は痛み止めや神経の血行障害を改善させる薬などを使用します。痛みが強い場合は神経根ブロックや仙骨ブロックなどの注射を行うこともあります。そのような治療をしていても症状が悪くなっていく場合は手術治療を行います。

 MRI画像から(1)椎間板の膨隆(2)黄色靭帯の肥厚(3)椎間関節の変形―により脊柱管が狭くなっていることがわかります。

 腰部脊柱管狭窄症の手術は、この狭くなった脊柱管を広げる手術(除圧術)と、それに加えて上下の骨を癒合させる手術(固定術)があります。腰椎すべり症で腰椎が前後左右にずれてグラグラしている場合は、脊柱管を広げるだけではなく、固定術が必要になります。

 今回は当院で行っている内視鏡下の除圧術についてご紹介します。

 当院では腰部脊柱管狭窄症に対し、直径16ミリの円筒型レトラクターに内視鏡スコープを挿入して手術を行う「MEL」「ME―MILD」という方法で除圧を行っています。

 MELとME―MILDは脊柱管に斜めに入って行くか、正中から入って行くかの違いだけで大きな差はありません。椎間関節の形や骨の変形の程度によってどちらか選択します。いずれも2センチ弱の傷で手術ができ、背部の筋肉や靱帯の損傷が少ないです。

 内視鏡画像を大きなモニターに映して手術するので深部までよく見え、安全に神経周囲の処置が行えます。神経の圧迫の原因になっている骨を削って、黄色靭帯を骨から剥がして切除することで脊柱管が広がり、神経の圧迫がなくなります。手術時間は1椎間当たり50~90分程度で出血は少量であり、感染リスクも非常に少なく、体への負担が最小限のため高齢者でも可能な手術です。術後リハビリテーションで動作指導や腰背部の筋力トレーニング、ストレッチの指導などを行い、1週間程度で退院できます。

 次回は腰椎椎間板ヘルニアに対する低侵襲手術治療についてご紹介します。

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 岡山中央病院(086―252―3221)

 なかはら・ひろゆき 高知医科大学卒。岡山大学附属病院、福山医療センター、岩国医療センター、岡山赤十字病院などを経て2016年から岡山中央病院整形外科科長。11年にThe Scripps Research Institute Research fellowに留学。専門は脊椎・脊髄外科、外傷。日本整形外科学会整形外科専門医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄病外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年12月02日 更新)

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