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16 骨折 腫れや痛み、変形に注意

 七歳の男児。二段ベッドの上で兄と遊んでいて誤って落下し、右手をついてしまいました。大きな泣き声がしたため、母親が駆け付けてみると、男児は右ひじ周辺の強い痛みを訴えました。衣服を脱がせてみたところ、右腕は不自然に折れ曲がり、全く動かせない状態でした。母親はスカーフで男児の右腕をつるし、直ちに病院の救急外来を受診しました。

   ◇   ◇

 お母さんは子どもの変形した右ひじを見て、骨が折れたのでは? と察知したのでしょう。骨折に限らず打撲、ねんざなどの外傷が生じた場合、患部の固定を行うことは痛みを緩和するだけでなく、二次的な組織障害の予防となります。非常に適切な判断、処置をされたと思います。

 病名は、右上腕骨 顆上 ( かじょう ) 骨折。ひじ関節は上腕骨と前腕部分の 橈 ( とう ) 骨 ( こつ ) 、 尺骨 ( しゃっこつ ) という三つの骨から構成される関節ですが、この上腕骨がひじ関節付近で骨折を生じたものです。五~十二歳の学童期に多発し、手をついて転倒、転落した際に生じます。小児の骨折の中でも非常に頻度が高く、また重篤な障害を残す危険性がある骨折です。

 小児の骨折が大人の骨折と大きく異なるところは、小児の関節周辺には成長をつかさどる軟骨部分が多く存在し、これが損傷を受けた場合、適切な処置がなされないと骨の発育とともに変形を生じる危険性があるということです。

 一方、大人に比べ骨癒合が早く、大部分の骨折で多少の変形や短縮が残ったとしても、成長とともに自然に元の形に復元される特徴があります。従って、手術対象となるのは全骨折の6~10%くらいで、ほとんどの骨折がギプスやけん引により後遺症を残すことなく治癒します。この例外的なものが、ひじ関節周囲に生じる骨折です。

 また、小児には骨のずれのない不完全骨折が多いのも特徴で、 腫 ( は ) れや痛みが少なく、発見が遅れたり放置されることがあります。緊急性はありませんが、注意が必要です。

 実際、子どもが四肢に外傷を被った場合、お母さんはまず受傷部位の確認をすることと思います。学童期なら痛みの個所を正確に伝えることができるでしょう。乳幼児では、骨折が起きるほどの状況が生じた場合、通常その肢を動かそうとはしないものです。衣服を脱がせてみて左右を比較し、よく観察しましょう。

 このとき、むやみに手足を動かそうとしてはいけません。骨のずれを大きくしたり、二次的な組織障害を引き起こす可能性があるからです。腫れや変形、皮膚の状況(出血など)を確認するだけで十分です。

 患部の皮膚から出血を認めた場合、折れた骨が外気と接した可能性があります。このタイプの骨折は細菌感染を起こしやすいため、清潔なガーゼで傷を覆い、一刻を争って受診してください。

 また、痛みや腫れがあるからといって安易に自己判断で湿布など使用しないようにしましょう。皮膚炎や 水疱 ( すいほう ) の原因となり、治療に支障を来すおそれがあります。むしろ、氷や保冷剤で患部を冷却することが痛みや腫れを和らげる上でも有効です。

 可能であれば、上肢なら大きめの布で固定し、下肢なら抱きかかえるなどして患肢に負荷をかけないようにして専門医を受診してください。

 (壺内貢・津山中央病院整形外科副部長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年02月11日 更新)

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