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25 熱射病 日陰で休憩、水分補給を

 私は、今年の四月からスポーツ少年団のコーチ役として、子どもたちの面倒を見ることになりました。これから屋外でスポーツをするのにはよい季節ですが、熱射病予防には何に注意して指導したらよいでしょうか。また、新聞で「親が買い物やパチンコのため、子どもを車に放置して死亡」という記事をよく見ますが、これも熱射病と同じなのでしょうか。

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 暑い季節のスポーツ時には、熱射病に対する注意と対策が必要です。スポーツ時の最も多い死亡原因は熱射病(暑熱障害)だからです。人間の体温はおもに発汗により調整されますが、脱水状態になると汗も出なくなります。

 子どもは成人と比較して体が小さいだけでなく、水分の占める割合も多く、腎臓の尿濃縮能が低いので、早期に脱水となりやすいのです。高温多湿の環境下、水分や電解質の補給なしで長時間運動を続けると、体温の上昇と脱水、それに伴う循環不全を起こします。その結果、脳や神経の障害、筋肉の融解、肝臓や腎臓の障害、血液の凝固障害が発生し、死に至ります。熱射病を早期に疑い、正しい対策をとれば死に至らず回復します。

 ではどんなことに注意が必要でしょうか。発生しやすい要因がいくつかあります。天候、運動の強さと休憩の頻度、衣服、水分や電解質の補給、本人の性格、体調などです。

 天候では、急に暑くなった時や蒸し暑い時には注意が必要です。体全体を覆うような衣服で、汗が蒸発しにくい場合も気をつける必要があります。また強い運動が休憩なしで長時間続く場合や、本人が弱音を吐かず頑張りすぎる子どもも要注意です。定期的に休憩を涼しい日陰でとり、なおかつ水分補給することが大切です。

 では熱射病にはどんな症状があるのでしょうか。軽症から重症のⅠ~Ⅲ度に分類されています。Ⅰ度はこむら返りや失神です。Ⅱ度は強い疲労感、めまい、頭痛、吐き気、 嘔吐 ( おうと ) 、下痢、体温の上昇です。最重症のⅢ度では意識消失、せん妄(混乱状態)、ふらつき、けいれんなどの脳神経症状が前面に出てきます。Ⅲ度では命の危険もあり、病院へ救急搬送が必要です。Ⅰ、Ⅱ度の段階では、すぐに運動を中止して涼しい場所で休ませます。

 また、わきの下の体温が三八度以上ある時には 濡 ( ぬ ) れたタオルでふいたり、あおいだりするとよいでしょう。水分が摂取できる場合はスポーツ飲料をゆっくり飲ませ、飲めない場合には病院へ搬送しましょう。スポーツ中に倒れて外傷がある場合、どうしても傷に注意がひかれますが、熱射病で倒れて受傷した可能性もあります。多くの不幸な例では頭部外傷に注意がいき、治療が遅れたケースが多いのです。わきの下をタオルでふいた後体温計で測定し、体温が高くないことを確かめることも重要です。

 次に乳幼児の車内放置による死亡も熱射病が原因です。カンカン照りでなくても、窓を少し開けていても車内は異常な高温になります。たとえ短時間だけと思っても、子どもを車内に放置するのは大変危険です。米国では小児虐待として逮捕されます。わが国でも虐待だという認識が必要でしょう。また、このような状況を発見した場合は、われわれは早く通報する必要があります。あなたの通報で子どもの命が救われます。

 (寺田喜平・川崎医科大小児科助教授)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年05月27日 更新)

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