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(2)腰椎椎間板ヘルニア 岡山中央病院整形外科科長 中原啓行

 今回は腰椎椎間板ヘルニアに対する低侵襲手術をご紹介します。

 椎間板は、中心部の髄核と呼ばれる柔らかい組織と線維輪と呼ばれる外層で構成されています。髄核は子供や若い人ではゼリー状ですが、年齢とともに水分量が減って固くなってきます。椎間板に強い力がかかると線維輪に裂け目が生じて、腰痛を引き起こすことがあります。裂け目が椎間板の外側まで広がると髄核が押し出され、突出します。これを椎間板ヘルニアと呼びます。

 突出した椎間板が神経根を圧迫すると下肢に痛みが生じます。馬尾と呼ばれる腰椎部の神経が椎間板ヘルニアで傷つくと排尿や排便の障害が生じることがあります。神経症状が軽度の場合は手術をしなくても数カ月で治癒しますが、適切な治療にもかかわらず下肢の痛みが治まらない場合、また下肢の麻痺(まひ)が進行する場合や前述の排尿、排便障害が出てくる場合には手術が必要です。

 当院では主に3種類の低侵襲手術治療を行っています。

 (1)MED(内視鏡下腰椎椎間板摘出術)

 腰椎椎間板ヘルニアに対して全身麻酔で行う、1時間程度の手術です。約2センチの切開創で16ミリまたは18ミリの操作管を挿入し、その中に内視鏡や小鉗子(かんし)などを挿入します。内視鏡画像を大きなモニターに映して手術するので、深部までよく見え、安全に神経周囲の処置が行えます。椎弓の内側と黄色靭帯(じんたい)を一部切除して神経を避けてヘルニアを摘出します。コルセットを着けて手術翌日から歩行、リハビリを開始し、約1週間の入院になります。

 (2)PELD(経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術)

 PELDは約8ミリの切開で直径7ミリの内視鏡を挿入し、その操作管の中に3ミリの小鉗子などを挿入してヘルニアを摘出する、腰椎椎間板ヘルニアの最小侵襲手術です。局所麻酔で手術が可能であり、MEDと同様に内視鏡画像をモニターに拡大して行います。手術時間は1時間程度です。手術当日に歩行開始でき、最短で翌日退院できます。椎間孔から進入するため、椎間孔の狭い症例や上下に大きく脱出したヘルニアなどへの対応は困難です。

 (3)コンドリアーゼ椎間板内注入療法

 この治療方法は十分な保存的治療を行っても症状が改善しない、後縦靭帯を突き破っていないヘルニアが適応になります。腹臥位(がい)、または側臥位でX線透視装置を用いて椎間板内に針を刺します。椎間板の中心に針が挿入されていることを確認してコンドリアーゼを投与します。コンドリアーゼは椎間板内のプロテオグリカンを分解してヘルニアを縮小させるので、効果が出るまでに数週間かかります。手術当日は安静のため入院していただきますが、特に問題がなければ翌日退院できます。手術施行後1カ月は運動や腰に負担のかかる作業は控えてください。

 個々のヘルニアによって最適な手術が異なるため、脊椎外科専門医とよく相談して治療方法を選択する必要があります。

 次回は胸腰椎圧迫骨折に対する低侵襲手術治療についてご紹介します。

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 岡山中央病院(086―252―3221)

 なかはら・ひろゆき 高知医科大学卒。岡山大学附属病院、福山医療センター、岩国医療センター、岡山赤十字病院などを経て2016年から岡山中央病院整形外科科長。11年にThe Scripps Research Instituteに留学。専門は脊椎・脊髄外科、外傷。日本整形外科学会整形外科専門医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄病外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年01月20日 更新)

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