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(3)胸腰椎圧迫骨折 岡山中央病院整形外科科長 中原啓行

 今回は胸腰椎圧迫骨折に対する治療法をご紹介します。

 超高齢化社会に突入し、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)患者はいまだ増加の一途をたどっており、骨粗鬆症を基礎疾患とした胸腰椎圧迫骨折もますます増えています。保存的加療で治ることが多い骨折ですが、中には骨癒合せずに偽関節という病態になったり、大きく変形して背中が曲がり、慢性疼痛(とうつう)や歩行障害、摂食障害などを来すものもあり、手術が必要になるケースが増えています。

 圧迫骨折に対する低侵襲な手術としてBalloon Kyphoplasty(BKP)という方法があります。全身麻酔下でうつ伏せに寝た状態で、骨折椎体後方の皮膚を約6ミリ、2カ所切開します。エックス線透視下で細い円筒を椎体の中まで挿入し、その中にバルーン(風船)のついた器具を入れ、骨折した椎体の中で膨らませます。

 風船が膨らむことで、壊れた椎体の形をできるだけ元の形に戻し、同時に壊れた骨は周囲に押しやられて固くなります。風船をしぼませて抜去した後、できた隙間に医療用の骨セメントを円筒を通して詰めていきます。骨セメントが隙間を埋め、骨にかみこんで骨折椎体を安定させます。

 手術時間は1椎体30分程度で、出血もほとんどない低侵襲な手術です。術後は麻酔が十分覚めれば動いてもらえます。骨折部が動かなくなるため痛みの改善が期待できます。

 BKPの適応は骨粗鬆症による1椎体の急性期胸腰椎圧迫骨折で、十分な保存的加療によっても痛みが改善されない症例です。骨折の程度がひどい場合(破裂骨折や椎体以外の骨折を伴う場合など)や、重篤な脳・心肺血管系疾患を有する場合▽全身性感染症または骨折した椎体の感染症を有する場合▽出血性素因を有する場合▽骨セメントまたは造影剤に対する過敏症の既往を有する場合―などBKPの適応にならないものもあります。

 手術後すぐに痛みやQOL(生活の質)の改善が期待できる、とても良い方法ですが、注意点もあります。

 セメントの硬度が骨より高いため、周囲の骨の損傷が少し起きやすくなります。このため術後数カ月コルセットを使用し、ゆっくりとした動作を心掛けなければなりません。また、胸腰椎圧迫骨折は骨粗鬆症が基礎疾患としてあり、一度骨折すると次の骨折が起こるリスクは3倍になるとされています。骨粗鬆症に対する治療を始め、継続する必要があります。

 高齢者の圧迫骨折は、最初軽微なように見えていても大きく変形が進む場合があります。下肢の神経症状が出るようになったものは、椎体置換や脊椎固定術が必要になります。このような手術は体への負担が大きく、いろいろな病気を抱えた高齢者には困難な場合が多いです。変形が大きく進む前に、適切な治療をすることが大切です。

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 岡山中央病院(086―252―3221)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年02月03日 更新)

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