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慈圭病院「こころの市民講座」

武田俊彦院長

石津秀樹副院長

 慈圭病院(岡山市南区浦安本町)は2月16日、ピュアリティまきび(同市北区下石井)で、「正しい睡眠習慣」と「認知症にやさしい社会」をテーマにした「こころの市民講座」を開いた。武田俊彦院長は「良質な睡眠は健康の礎」とし、睡眠時間にこだわるのではなく、決まった時刻に起床して活動する「毎日早起き」が健康的な生活リズムをもたらすと指摘。石津秀樹副院長は、認知症の進行に伴い記憶や言葉を次第に失っていく患者本人の不安や焦りを理解し、その気持ちに寄り添うことが大切だと強調した。講演概要を紹介する。

快適な朝の目め醒ざめを得るために 武田俊彦院長
毎日同じ時刻に起床


 睡眠は精神の健康にとって非常に重要です。脳は日中、活発に働き続けているので、睡眠をとって十分に休息させなければいけません。

 寝不足が続くと疲労感が出るし作業効率は下がります。食欲を増進させるホルモンが増えて肥満になったり、糖尿病、高血圧が生じやすくなります。うつ病の発症リスクも高めます。不眠はさまざまな疾患の原因になるのです。

 日本人の平均的な睡眠時間は7時間半ぐらいですが、高齢になると6時間、それ以下でも問題のない方はたくさんいます。

 睡眠中、われわれは90分から2時間周期で深い眠りと浅い眠りを繰り返します。寝入りばなの前半部分に深い眠りが集中し、その後は比較的浅い眠りが続きます。高齢になると、深い眠りが少なくなり、浅い眠りが中心になります。トイレなどで途中に起きたりしますが、その後、すぐに寝られれば問題はありません。

 不眠症には四つのタイプがあります。寝床に入って1時間たってもなかなか寝付けない「入眠障害」▽寝付いた後、夜中に何度も目覚めて再び寝られない「途中覚醒」▽睡眠時間は足りているのに、疲れやだるさが残って寝た感じがしない「熟眠障害」▽思っていた起床時刻よりも早く目覚め、日中に強い眠気を感じる「早朝覚醒」は、うつ病の人に多く見られます。こうした寝にくさだけでなく、日中の眠気や疲労感、集中力や記憶力の低下、作業効率の低下などがあった場合、医師は不眠症と診断し、治療の対象となります。

 ただ、こうした睡眠障害に直面したとき、すぐに薬に頼るのではなく、まずは自分の睡眠習慣を見直してみてください。

 正しい睡眠習慣を身に付けるための指針として、厚生労働省が示した12項目があります=表。

 まずは「睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分」。他人がそうだからと言って、7~8時間寝る必要はありません。高齢になれば睡眠時間は短くなるし、途中に目が覚め、眠りが浅くなるのは当たり前です。

 「刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法」。就寝前のコーヒーや喫煙は避けましょう。個人差はありますが、コーヒーは4時間前でも影響があると言われます。途中に目が覚めたとき、喫煙する人がいますが、タバコには覚醒作用があります。

 「眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない」というのは、眠ろうとする意気込みが頭をさえさせて、かえって寝付きを悪くしてしまう、ということです。「寝不足だから今日は早く寝よう」と、眠くもないのに床についても寝られるものではありません。寝床に入って15~30分たっても眠れない場合は、思い切って寝床からいったん出て、音楽を聞くなどリラックスできることをしてください。そして自然な眠気を待ちましょう。

 「同じ時刻に毎日起床」―。重要なのは、早く寝るよりも毎日同じ時刻に目覚めて活動する生活習慣です。「早寝早起き」ではなく、「早起き」が「早寝」につながるのです。

 昼寝は3時までに軽くとりましょう。昼休みのうたた寝がお勧めです

 良質の睡眠は健康の礎となります。いかにリラックスするかが自然な入眠の鍵と言えます。定時に目が覚めたらカーテンを開けて日光を取り入れ、体内時計のスイッチをオンにしましょう。規則正しい朝食と、ラジオ体操など適度な運動で、体内時計はリセットされます。必要な場合は精神科医と睡眠薬も上手に活用してください。

認知症にやさしい社会をつくるには 石津秀樹副院長
尊厳守る支援が必要


 長生きをすると認知症になりやすいと言われます。90歳を超えたら6割の人は認知症、というデータもあります。だから認知症になっても大丈夫だと思える、幸せに暮らせる社会が求められています。それには認知症を正しく知らなければなりません。

 認知症には「中核症状」と「周辺症状」があります=図。中核症状は直前に起きたり、自分がしたことを忘れる記憶障害や、筋道を立てた思考ができなくなる判断力の障害などで、脳の神経細胞が壊れることによって起きる症状です。少しずつ進行し、止めることはできません。

 周辺症状は周囲の人との関わりの中で生じる症状で、暴言や暴力、徘徊(はいかい)、不眠、抑うつ、せん妄などです。その人の置かれている環境や性格、人間関係が絡み合って生じるので、その症状はさまざまですが、予防も治療もできます。住み慣れた環境で生活するには、この周辺症状を生じさせない工夫が大切なのです。

 周辺症状が起きる原因には、本人の性格▽家族の不理解▽家庭や施設の生活などでの心理的・環境的なストレス▽疾患・身体的な要素▽薬剤の副作用―などが挙げられます。その背景には必ず本人なりの理由があり、背景を理解することで症状改善につながる場合も少なくないのです。

 記憶にないことは、本人にとって事実ではありません。食事をしたことを忘れて「食べていない」と言い張ったりしますが、これをいちいち訂正しても事態は好転しません。本人は、ない記憶を振り返ることはできないのです。

 「さっき言ったでしょう」「もう忘れたの」などと言われるのは本人にとってとてもつらい体験です。不安も募ります。そして、嘆く家族の前で「俺はぼけてなんかいないぞ」と怒ってしまいます。

 認知症のある人の心の中を見てみましょう。病気の進行に伴って記憶や言葉を失い、コミュニケーションがとれなくなって失敗も増えます。温かな会話が少なくなり、社会や家庭で孤立します。尊厳を失い不安や焦りが募り、そこで叱られたりすると混乱を来し、興奮や抑うつの状態を招いたりします。これが周辺症状です。

 本人のつらさを理解しないまま家族が「どうしてそんなことが分からないの」と言ったり、介助をしようとすると、患者さんの拒否、怒り、暴力につながることがあります。こうした攻撃的な言動は、家族にとっては問題行動ですが、患者さん本人にとっては、いわば自分の尊厳を守ろう、現実の世界に適応しようとチャレンジしている姿だとも言えるのです。そうした実状を理解して、失敗や暴言があったとしても大目にみてあげることが大事です。

 本人の尊厳を守るには、認知症が進んだとしても、どういう暮らしを続けたいのか、どう接してもらいたいのかという日頃の思いを実現してあげるための周囲の支援が必要です。

 終末期に受けたい医療やケアを、本人が元気なうちから家族や医師らと話し合う「アドバンス・ケア・プランニング」という考え方があります。終末期と言っても死に方を考えるのではありません。人生の最終段階まで尊厳を失わず、いかに自分らしくあり続けるかをイメージし、みんなに伝え、その思いを具現化させるためのコミュニケーション手段です。家族やかかりつけ医と取り組んでみてください。

 幸せな認知症になる心構えを話します。いつも明るい表情で不平不満を言わない。人間関係は大切です。生老病死は当たり前。認知症は怖くありません。ありのままで行きましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年04月06日 更新)

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