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(9)感染制御チーム 倉敷中央病院臨床検査・感染症科主任部長 橋本徹

WHOが定める手指衛生の五つのタイミングと正しい洗い方を院内各所に表示して職員の意識を高めています

感染対策について最新の知識が保たれるよう、ICTメンバーは全職員を対象とした定期的な研修会を開催しています

橋本徹主任部長

 感染症は人類の歴史においては長らく最大の脅威でした。20世紀に入り、ペニシリンの発見に始まった治療薬の劇的な進歩により、以前は不治の病であった病気が次々に治癒可能となり、いったん人類はその脅威を克服したかに見えましたが、そうではありません。

 超高齢社会に伴い当院の入院患者も高齢者が増加しています。一般的に高齢者では、高齢化自体により免疫力が低下している傾向にありますが、普段から慢性の病気を抱え治療を受けられている方も多く、体力の低下や低栄養などにより、さらに免疫力が低下している方が多くなっています。

 また、近年、医学の進歩により、さまざまな治療が発達しました。治療によっては、免疫が低下した状態に陥ることがあり、治療の発達とともに、免疫の低下した患者さんが増加しています。医学の発達により感染症は人類の脅威ではなくなったかに見えましたが、一方で免疫が低下した患者さんの増加により、感染症は現代においても主要な脅威であり続けています。

 このように現代の急性期の病院では、感染症の治療のため入院される患者さんがいる一方で、さまざまな理由で抵抗力が低下した患者さんも多数入院されています。入院後に新たな感染症に罹患(りかん)することを院内感染といいますが、発症前から適切な対応をすることで、そのリスクを最小限にすることができます。これを感染対策といい、病院として大変重要なこととされています。

 感染制御チーム(ICT)は、病院の感染対策において中心的役割を担うかなめの部署であり、さまざまな場面において必要な感染対策が何かを定め、それぞれが適切に実行されるよう多岐にわたる活動をしています。入院患者さん一人一人に感染対策として必要とされることは何かを表示し、医療スタッフ全員が必要な感染対策を実施できる環境を整えています。新入職員を含めた全職員に対し教育・研修活動を実施し、スタッフ全員が常に最新の知識を保てるよう努めています。

 感染症の中には多くの疾患が含まれ、それぞれの特徴がありますが、感染対策として必要なことはそう多くありません。中でも手指衛生(いわゆる手洗い)は、感染対策の基本の一つで、重要なことは理解されていますが、しばしば実行されておらず、感染症伝播(でんぱ)の原因となっています。

 当院では、世界保健機関(WHO)が定めた手指衛生の五つのタイミングをもとに院内の規定を作成し、遵守(じゅんしゅ)することを目指しています。完璧に遵守するためには医療スタッフは場合によって1日に数十回も手指衛生が必要となりますが、業務に追われ多忙を理由につい怠りがちです。当院では定期的にそれぞれの部署で実際に手指衛生が規定通りに実行されているかどうか、本人に気づかれない方法で観察、モニタリングしています。

 必要とされる場面で規定通り手指衛生が実行された率を手指衛生の遵守率として数値化し(いわゆる見える化)、院内で共有しています。遵守率の低い部署には、直接、ICTが介入し、どのようにすれば必要な場面で手指衛生を実行できるか、対策や指導を行なっています。手指衛生の対策を強化することで院内感染が減少し、顕著な成果を上げています。

 当院のICTでは、医師、看護師のみならず、薬剤師、臨床検査技師など多職種が一丸となってチームを組み、院内感染低減のために取り組んでいます。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)。連載は今回で終わりです。

 はしもと・とおる 金沢大学教育学部附属高等学校、京都大学医学部卒。同大大学院医学研究科修了。1995年より倉敷中央病院勤務。日本呼吸器学会専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医、日本臨床検査医学会管理医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年04月06日 更新)

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