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第1回「長期戦の新型コロナウイルス感染症」

尾内一信主任教授

新型コロナウイルスを確認するために行われるPCR検査。検体は二重扉で外気を遮断した部屋で安全キャビネットに入れて慎重に処理される=岡山県環境保健センター

中野貴司教授

 新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)―19)との闘いが長期化している。4月上旬・中旬のピーク時から新規感染者は減っているものの、油断はできず、社会活動の制限を緩和した後の再燃も心配されている。「川崎学園集中講義」初回は、感染症に詳しい川崎医科大学小児科学の尾内一信主任教授、中野貴司教授に登壇していただき、COVID―19収束までの見通しや、医療崩壊を起こさないために私たちが知っておくべきことを教わった。

「COVID―19はいつ収束するのか」 川崎医科大学小児科学 尾内一信主任教授

 ●旧来のコロナウイルスとの違いは?

 皆さんがかかる「風邪」はかなりの割合で4種類のコロナウイルスが原因です。皆さんはある程度抵抗力を持っているので、これらのウイルスで命を奪われることはほぼありません。

 一方、次々に新しいコロナウイルスが出現しています。2002年末にSARS(サーズ)、12年にはMERS(マーズ)が現れました。SARSは04年を最後に発症報告はなく、MERSも中東でたまに発症例がある程度で、ほとんどの地域で抑え込んでいます。両方とも感染すれば必ず重い症状が出るので、患者を隔離して感染の拡大を防ぐことができたのです。

 今回のCOVID―19はやっかいです。感染しても症状が出ない人がかなり多い。未感染の人に無症状の感染者が混じっていても、見分けるのは困難です。いったん広がり始めるとなかなか止められません。

 ●2009年のインフルエンザはどうなった?

 実は、この状況は09年に「新型インフルエンザ」のウイルスが現れ、パンデミックを起こした時とよく似ています。このウイルスも多くの無症状感染者がいて、1年目に国内で3千万~4千万人が感染しました。

 COVID―19との違いは、既に抗インフルエンザ薬があり、早期にワクチンを供給することができたことです。COVID―19はまだ特効薬はなく、ワクチンも完成していません。

 09年のインフルエンザウイルスは今も毎年流行し、「季節性インフルエンザ」の仲間になっています。1年目は真夏も流行が続きましたが、2年目以降は免疫を持つ人が増え、感染しやすい冬だけ流行するようになったのです。

 ●自然免疫の弱い人を守ろう

 COVID―19は誰でもかかりやすいのですが、それでも自然免疫は働きます。自然免疫を担う細胞は体内に侵入した外敵をいち早く察知し、食べてしまいます。この働きが弱い高齢者や基礎疾患のある人、乳児が重症化しやすいのです。ワクチンが完成し、接種すれば獲得免疫も働きます。それまではこうした人たちがかからないよう、守らなければなりません。

 COVID―19は夏にいったん下火になっても秋には再燃し、完全に収束することはないでしょう。1~2年かかって70~80%の人が感染するかワクチンを接種し、獲得免疫を得た段階で、冬に流行する「季節性」のコロナウイルスになると考えられます。

「医療がパンデミックに耐えるために」 川崎医科大学小児科学 中野貴司教授

 ●COVID―19は軽症でも入院?

 消防庁は救急車で搬送する患者について、「軽症」は入院の必要がない者、「中等症」は3週間未満の入院、「重症」は3週間以上の入院と区分しています。しかし、COVID―19は軽症でも原則は入院です。指定感染症であり、感染拡大を防ぐことが目的です。

 しかし、患者数が大幅に増加し、軽症者が病床を占有すると、酸素投与や人工呼吸など医療機関でしかできない治療が必要な重症患者の病床が不足します。そのため地域によっては、軽症者はホテルや自宅で療養しています。ただし、風邪に似た軽い症状が続いた後、急に重症化する場合もあり、軽症者も毎日の健康チェックは不可欠です。

 ●医療崩壊を起こしてはいけない!

 医療機関での治療が必要な病気は、COVID―19以外にたくさんあります。そうした患者の診療機会を奪うことは「医療崩壊」であり、何とか避けなければなりません。そのためにも、軽症者は入院治療を行わない場合があります。

 心配でも、軽い風邪症状ですぐに医療機関を受診することは控えてください。保健所などに設置された帰国者・接触者相談センターへの相談や、相談する症状の目安(37・5度以上の発熱が4日以上続くなど)を定めていたのも、より感染を拡大させないことと、診療現場を混乱させないためです。特定の医療機関に患者が殺到し、混雑によって院内感染が起これば「医療崩壊」につながります。

 とはいえ、検査が遅れて重症化してはいけません。高熱や強いだるさ、息苦しさがある場合、また軽い症状でも重症化しやすい人はすぐに相談するよう、目安が改定されました。

 ●2009年新型インフルエンザとの違いは?

 09年の新型インフルエンザ発生時は抗インフルエンザ薬が使われました。しかし現在、COVID―19への確実な効果が確認された薬はありません。09年は季節性インフルエンザのワクチン製造のノウハウをもとに、新型のワクチンが短期間で製造されましたが、コロナウイルスのワクチンはまだ実用化されたことがありません。

 また、COVID―19を高い感度で診断するにはPCR法が必要で、迅速抗原検査キットは承認されたばかりです。治療・予防・診断のあらゆる面で、COVID―19と闘う手段を確立するための研究を推進する必要があります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年05月18日 更新)

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