(1)薬を減らしてよくなった 万成病院理事長・院長 小林建太郎
■認知症はよくなるのか?
認知症の原因となる病気はたくさんあります。症状によって「治せる認知症」と「治せない認知症」があります。まずは「治せる認知症」を見逃さないことが重要ですが、「治せない認知症」であっても薬物療法やケアによってよくなることがあります。
認知症がよくなるとは記憶力や理解力が若いころのようによくなることではなく、問題となっている症状、たとえば徘徊(はいかい)や怒りっぽさが軽くなり、穏やかになって安心して周囲に溶け込んでいけるようになることではないでしょうか。認知症があってもできることが増えて、自信ができて集団の中で自分の役割をこなしていく姿を目指したいと考えます。
■万成病院での取り組み
万成病院では「精神科医療からの町づくり」を目指しています。モットーは「地域とともに、ひろがれ!笑顔」で、それには三つの柱があります。
(1)心の病の教育・啓発の充実 ともに生きる社会を目指し、地域住民にセミナーを開催
(2)高齢者(特に認知症)の支援 しなやかにつながる地域を目指し、地域交流カフェ等を実施
(3)障がい者スポーツ支援 元気で活気のある岡山を目指し、地域スポーツを支援
特に認知症に対しては、予防・診断から看(み)取りまで認知症フルステージ医療を行うべく院内外で「認知症プロジェクト」(次回掲載)を実施しています。
■薬による認知機能障害
高齢者の認知機能障害の原因の一つとして、薬による影響があります。報告では表1に示すように治療可能な認知障害のうち20%弱が薬剤性とされています。特に高齢者では多くの慢性疾患があり、服用している薬の数も多く、飲み間違いも起こりやすく、薬剤性の認知障害をきたしやすい状況にあります。
薬によって認知障害を起こしやすい種類もあり、一般的に起こしやすいとされている薬剤を表2に示しました。投与量にも関係し、同じ種類の薬でも起こしにくいものもあります。当然必要な薬でもありますので、中止や減薬については、かかりつけ医の先生と相談してください。最近経験したケースを紹介します。
■薬を減らしてよくなったAさん
Aさんは72歳の女性。24歳の時に幻聴、被害妄想が出現して興奮状態となり初回入院。治療によって病状は安定して退院したのですが、薬の中断などで病状が再燃して5回の入院歴があります。この15年は自宅で1人暮らしをしていて、1カ月ごとに通院、訪問看護も利用して暮らしていました。
約1年前から日中にボーとしている時間が増え、物忘れも増加し同じものばかり買いこんでいるとの訪問看護師からの報告がありました。認知症の合併も考えたのですが、抗精神病薬の影響を疑って薬を中止しました。その後反応は良くなり、活動性も戻ってきました。ただ薬をやめて3カ月後より怒りっぽくなり、周囲への被害的な受け止めも出てきたため、抗精神病薬の種類を変えて投与、易怒性はなくなり物忘れも年齢相応で落ち着かれて1人暮らしを続けています。
◇
万成病院(086―252―2261)
こばやし・けんたろう 川崎医科大学大学院卒。同医大講師、万成病院副院長を経て、2001年から現職。岡山県病院協会議長・岡山支部会長、岡山県精神科病院協会副会長。専門は精神科。岡山市出身。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。
認知症の原因となる病気はたくさんあります。症状によって「治せる認知症」と「治せない認知症」があります。まずは「治せる認知症」を見逃さないことが重要ですが、「治せない認知症」であっても薬物療法やケアによってよくなることがあります。
認知症がよくなるとは記憶力や理解力が若いころのようによくなることではなく、問題となっている症状、たとえば徘徊(はいかい)や怒りっぽさが軽くなり、穏やかになって安心して周囲に溶け込んでいけるようになることではないでしょうか。認知症があってもできることが増えて、自信ができて集団の中で自分の役割をこなしていく姿を目指したいと考えます。
■万成病院での取り組み
万成病院では「精神科医療からの町づくり」を目指しています。モットーは「地域とともに、ひろがれ!笑顔」で、それには三つの柱があります。
(1)心の病の教育・啓発の充実 ともに生きる社会を目指し、地域住民にセミナーを開催
(2)高齢者(特に認知症)の支援 しなやかにつながる地域を目指し、地域交流カフェ等を実施
(3)障がい者スポーツ支援 元気で活気のある岡山を目指し、地域スポーツを支援
特に認知症に対しては、予防・診断から看(み)取りまで認知症フルステージ医療を行うべく院内外で「認知症プロジェクト」(次回掲載)を実施しています。
■薬による認知機能障害
高齢者の認知機能障害の原因の一つとして、薬による影響があります。報告では表1に示すように治療可能な認知障害のうち20%弱が薬剤性とされています。特に高齢者では多くの慢性疾患があり、服用している薬の数も多く、飲み間違いも起こりやすく、薬剤性の認知障害をきたしやすい状況にあります。
薬によって認知障害を起こしやすい種類もあり、一般的に起こしやすいとされている薬剤を表2に示しました。投与量にも関係し、同じ種類の薬でも起こしにくいものもあります。当然必要な薬でもありますので、中止や減薬については、かかりつけ医の先生と相談してください。最近経験したケースを紹介します。
■薬を減らしてよくなったAさん
Aさんは72歳の女性。24歳の時に幻聴、被害妄想が出現して興奮状態となり初回入院。治療によって病状は安定して退院したのですが、薬の中断などで病状が再燃して5回の入院歴があります。この15年は自宅で1人暮らしをしていて、1カ月ごとに通院、訪問看護も利用して暮らしていました。
約1年前から日中にボーとしている時間が増え、物忘れも増加し同じものばかり買いこんでいるとの訪問看護師からの報告がありました。認知症の合併も考えたのですが、抗精神病薬の影響を疑って薬を中止しました。その後反応は良くなり、活動性も戻ってきました。ただ薬をやめて3カ月後より怒りっぽくなり、周囲への被害的な受け止めも出てきたため、抗精神病薬の種類を変えて投与、易怒性はなくなり物忘れも年齢相応で落ち着かれて1人暮らしを続けています。
◇
万成病院(086―252―2261)
こばやし・けんたろう 川崎医科大学大学院卒。同医大講師、万成病院副院長を経て、2001年から現職。岡山県病院協会議長・岡山支部会長、岡山県精神科病院協会副会長。専門は精神科。岡山市出身。
(2020年06月01日 更新)