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(1)糖尿病性腎症とは 岡山大学病院新医療研究開発センター教授 四方賢一

四方賢一新医療研究開発センター教授

 糖尿病性腎症は、糖尿病によって起こる重要な合併症の一つです。進行すると腎不全となり、透析療法や腎移植が必要となります。わが国では、透析療法が必要になる原因の第1位(約40%)を占めていて、1年間に約1万6千人の糖尿病患者さんが、新たに透析療法を導入されています。糖尿病性腎症を予防することは、糖尿病患者さんの生活の質(QOL)の低下を防いで寿命を確保するために極めて大切です。

 今回は、「糖尿病から腎臓を守るために」と題して、5回のシリーズで解説したいと思います。

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 糖尿病性腎症はなぜ起こる?

 血糖値が高い状態が長期間続くことによって起こる酸化ストレスや炎症など多くの異常によって、腎臓がダメージを受けて発病すると考えられています。

 症状 初期には症状がありません。進行すると、むくみやだるさ、吐き気などが起こります。

 診断 主に血液検査と尿検査(検尿)で行います。血液検査では腎機能(eGFR)を測定し、検尿でタンパク尿を検査します。糖尿病があってタンパク尿が陽性で、他に原因となる病気がなければ、糖尿病性腎症と診断されます。ただし、通常の試験紙法(尿スティック)でタンパク尿が陽性となる頃には腎症は進行していますので、早期に診断するためには検尿で「アルブミン尿」を測定します。アルブミン尿とは、尿の中に漏れ出す微量なタンパク質であるアルブミンを精密に測定する方法で、腎症の早期診断に用いられています。

 経過 典型的な経過では、初期に微量のアルブミン尿(タンパク尿)が出現し、その後タンパク尿が増加するとともに腎機能が低下します。図に示すように、腎症の経過は、アルブミン尿・タンパク尿の量と腎機能(eGFR)の数値によって1期から5期に分類されています。(このような典型的な経過を取らない場合も含めて、「糖尿病性腎臓病」という名前が用いられることもあります)

 治療 基本は血糖値と血圧、コレステロール値を良好に保つことと、減塩を主とした食事療法です。治療薬としては「ACE阻害薬」と「アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)」と呼ばれる薬が用いられています。最近では、糖尿病の治療薬として開発された「SGLT2阻害薬」と「GLP―1受容体作動薬」の二つの薬が糖尿病性腎症に効果があることがわかり、注目を集めています。

 糖尿病性腎症は、早期に治療を行えば、多くの場合進行を抑えることができます。健康診断などで異常が見つかったら、必ず医療機関を受診して頂きたいと思います。

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 岡山大学病院(086―223―7151)

 しかた・けんいち 岡山大学医学部卒、同大学大学院医学研究科修了。米ハーバード大学ジョスリン糖尿病センター客員准教授、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学准教授、同大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科診療科長を経て2010年より現職。岡山大学病院糖尿病センター副センター長、岡山県糖尿病対策専門会議会長も務める。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年07月20日 更新)

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