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(4)「おひたし」でよくなった 万成病院認知症治療病棟看護主任 安藤雅美

安藤雅美認知症治療病棟看護主任

 ■認知症ケアの原則

 認知症治療病棟に入院して来られる方は、認知症の行動・心理症状(BPSD)やせん妄により不安や混乱をきたしています。また家族は昼夜を問わずその対応に追われて疲弊し、入院を選択するケースが多くあります。病院の中の限られた空間でどれだけその人らしさを取り戻せる援助ができるかが、看護・介護の役割だと思っています。

 万成病院では、認知症高齢者を一人の人として尊重し「その人の視点や立場に立って理解しながらケアを行う」というパーソンセンタードケアの考えを根幹として、実践すべき認知症ケアの原則「おひたし」を作成し、全職員で実施を心がけています。

 ■「おひたし」とは

 「お」怒らない(いつも笑顔で、ひろがれ笑顔)

 認知症の方は、怒られた時の不快な感情は残ります。そうすると介護者との信頼関係が崩れ、ケアを嫌がりスムーズなケアができない状況が生まれる可能性があります。認知症の方を支える「私たち自身」が笑顔でいることで、ご本人の笑顔を呼び起こします。

 「ひ」否定しない(思いに寄り添う)

 認知症の方は時に妄想により不可思議と思える行動をとることがあります。しかしそれは本人にとってはまぎれもない現実であり、頭ごなしに否定せず、いったん受け止め本人がそう認識した要因を探ることが大切です。介護者が心の世界を尊重し、理解しようと思いに寄り添う態度は、本人にも伝わり信頼や安心を生み出します。

 「た」楽しむ(楽しもう 介護する側 される側) 本人と過ごす時間を共に楽しむことで、私たちの笑顔が本人の笑顔となり、また私たちの笑顔となっていきます。お互い楽しい時間を過ごすためには本人の生い立ち、性格、症状、習慣などを知っておくことも大切です。

 「し」支援する(できることをしてもらう)

 「手を差し伸べる」のではなくて「背中に手をまわす」ことが大切です。自分のできることは自分で行ってもらえるよう支援していく事で、その人らしい生活を送っていく事につながります。

 ■暴言暴力の目立ったAさん

 レビー小体型認知症の80代男性Aさんは、幻視の出現や、徘徊(はいかい)して警察に保護されたり、暴言暴力行為が頻繁にみられ、家族が疲弊し自宅での対応が難しくなり、入院されました。入院時には不安や混乱が強く介護抵抗などがありました。「おひたし」を実践する中で、Aさんが犬を飼い、大変かわいがっていることを知り、犬の話から会話が広がり笑顔が増えていきました。Aさんは飼い犬のことを知っているスタッフに対し安心感を覚え、心を開いていったのだと思います。

 BPSDはケア実践のあり方次第で症状が軽快、改善し、苦痛を感じることなく穏やかに生活することが可能になります。なぜその症状が出るのか、一人一人の背景を知り、その人の思いに寄り添い尊重し対応していくことが大切です。

     ◇

 万成病院(086―252―2261)

 あんどう・まさみ 1997年、准看護師免許取得。老人保健施設、内科医院で勤務後、結婚、子育てのため退職。2013年、万成病院就職。勤務の傍ら穴吹医療大学校通信課程に入学し、19年、看護師国家試験に合格。20年、認知症ケア専門士を取得。同年4月より看護主任。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年07月20日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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