文字 

インタビュー どうする医師不足(下) 許南浩岡山大医学部長 地域枠 やりがい伝える

 ほう・なんほ 東京大大学院修了。富山医科薬科大(現・富山大)教授などをへて2001年から岡山大大学院教授。昨年から現職。専門は細胞生物学。倉敷市出身。62歳。

 ―医師不足の原因をどう考えるか。

 非常に多くの要因がある。長い目で見たときに一つ忘れてならないのは医療の高度化。新しい治療法がどんどん出て、昔と比較にならないほど多くのマンパワーを必要としている。

 その考慮がないまま、医療費抑制の観点から、大学医学部の入学定員を抑えてきた。このことだけでも医師不足は必然だと思う。

 ―国は近年、医学部定員を増やしている。

 岡山大も1学年100人だったのが、昨春の入学定員は110人、今春は117人と、2割近く増えた。半面、教える側の教員は約130人しかおらず、拡充できるめどはほとんどない。

 今は教育の方法が学生の自主的な取り組みを支援するようになり、例えば5、6年生の臨床実習は本年度、見学中心から診療参加型にした。今まで以上に教員のマンパワーが必要。その中で学生数が急激に増え、非常に困難な状況に陥りつつある。

 特に大きな問題は教室の収容人員。今はもう満杯に近い。さらに増やすのは難しい。限界でしょう。

 ―民主党政権はマニフェストで医師養成数を1・5倍にするとしている。

 150人になると、教室に入りきらない。抜本的に施設を整備しないと無理。だが、建て替えるといっても全国だと大変な話になる。

 1・5倍にすることも大事かもしれないが、教育の質が落ちれば学生のモチベーションも下がる。数合わせだけでなく教育の質を重視する必要がある。

 ―岡山大は定員増のうち、昨春は半分の5人を岡山県、今春は7人全員を岡山、広島など4県の「地域枠」に充てた。さらに今月、岡山県の寄付で地域医療人材育成講座を開設した。

 本学部は卒業生の9割が地域の医療機関で働き、これまでも地域医療に貢献してきた。ただ、2004年に始まった新しい臨床研修制度で大学病院に残る卒業生が減り、地域に人材を供給するシステムが弱体化した。今回の講座開設は、社会のニーズに応えて地域医療への貢献を再構築しようということだ。

 講座の役割は地域医療実習のコーディネートや地域の医療機関のネットワークづくり。その中で学生や若い医師を教育する。地域の医療者にも講義してもらい、現場のやりがいを伝えたい。

 肝要なのは、若い医師を奨学金で縛って地域に行かせるのでなく、自ら望んで赴いてもらうこと。講座などを通じて、地域医療に意義を見いだしてほしい。

 ―ただ、今春の入試で地域枠は定員の半数の6人しか合格せず、定員割れになった。

 地域枠の学生は卒業までの6年間、奨学金が支給され、返済免除の代わりに、地域の医療機関で9年間勤務する条件がつく。そのデューティー(義務)の中身が確定していないので、手を挙げにくい。卒業後、どんな医療機関に勤務するのか、県を中心に早急にまとめる必要がある。

 ただ、卒業間もない医師をへき地の診療所に一人で9年間、縛りつけるのでは奨学金を受ける学生はいなくなる。義務年限期間の何年間かは地域の医療機関に勤務するけれど、その前後に基幹的な医療機関でトレーニングを受けられ、生涯キャリアを伸ばせるプログラムができれば志願者は増えると思う。

     ◇

 インタビューおわり。第6部は、高額な治療費負担に苦しむ患者を通し、揺らぐ健康保険制度の足元を探ります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年05月13日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ