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第3回「新型コロナウイルスの検査法」 川崎医科大学附属病院中央検査部 河口豊技師長

ウイルス感染を防ぐため、医療用マスクや手袋などを身に着け、安全キャビネット内で作業する担当者

河口豊技師長

 新型コロナウイルスの感染の有無を調べる代表的な方法としては「PCR検査」「抗原検査」「抗体検査」の三つがある。それぞれ調べる対象が違うので、その特徴を知った上で目的に合った検査を選ぶことが大切だ。「川崎学園集中講義」第3回は川崎医科大学附属病院で、さまざまな病気をもたらすウイルスや細菌などを扱っている中央検査部の河口(こうぐち)豊技師長に、三つの検査の長所や短所について教えてもらう。

PCR検査と抗原、抗体検査

 ●PCR検査

 新型コロナウイルスに固有の遺伝子を見つける検査です。検体には鼻や喉の粘液、唾液などを用います。ウイルスの遺伝子がわずかでも含まれていれば検出できる、非常に感度の高い方法です。しかし、専用の機器や熟練した技術が必要な上、結果が出るまで数時間を要するなど簡便な検査とは言えません。

 遺伝子検査はあくまでもウイルス遺伝子の存在を捉える方法であって、感染性のないウイルスの断片でも反応することがあります。例えば、鼻の奥から採取した粘液の検査では発症後3週間くらいまで陽性になり続けることが知られています。しかし、発症から2週間を超えれば他の人にはほとんど感染しないことも分かってきました。このため、「遺伝子検査陽性=感染性のあるウイルス陽性」というわけではありません。

 また、遺伝子検査には「LAMP法」というのもあります。わが国で開発された検査法で、PCR法の方がLAMP法より若干感度が良いと言われていますが、日常検査としてはLAMP法で十分代替できると考えられます。

 ●抗原検査

 PCR検査と同様に、鼻や喉の奥から拭い取った粘液、唾液を検体とし、ウイルスのタンパク質である抗原を検出する方法です。簡便な検査キットが最近開発され、専用の機器を必要とせず、かつ30分程度の短時間で判定できるというメリットがあります。しかし、陽性結果が得られるためには遺伝子検査と比べ多量のウイルスが必要となります。従って、抗原検査が陽性なら新型コロナウイルス感染症と診断できますが、陰性であっても感染症を否定できないことになります。

 ●抗体検査

 新型コロナウイルスに感染していても症状が出なかったり、病院に行かないまま回復した場合を含め、過去に感染したかどうかが分かります。

 抗体とは、体の中に侵入してきた病原体などに対応するために、免疫反応によって生体内で作られるタンパク質です。免疫グロブリン(Ig)とも言い、5種類ありますが、新型コロナでは血清中のIgGまたはIgMを測定します。

 これらの抗体は発症後数週間後くらいから検出できると言われています。抗体検査が陽性であれば、過去に「感染した」と言えますが、発症早期であれば陰性であっても「感染していない」とは言いきれません。抗体がまだできていない場合があるからです。

検査の手順と注意点

 ●検査の手順

 PCR法は、遺伝子本体であるDNAを増幅して検出します。遺伝情報の伝達などを担うRNAは検出できません。コロナウイルスはRNAウイルスですので、(1)検体からRNAを抽出(2)DNAへの変換、試薬・試料の添加(3)検査装置にかける―の順番で行います。

 RNA抽出は危険な作業です。担当者は感染防止のため医療用マスクや手袋、キャップ、ガウンを着用し、ウイルスが拡散しないよう陰圧状態の安全キャビネット内で、薬品を使って感染能力を除去しながら抽出します。

 試薬・試料にはDNAを増幅する際に材料となる物質や、合成を促す酵素などが含まれます。PCR反応は鉛筆の先ほどの小さな試験管内で行われるので、ピペットを使い目薬1滴の数分の1ほどの量を正確に添加する、臨床検査技師の熟練の技術が求められます。

 試験管をPCR装置にセットすると自動的に検出が始まります。目的の遺伝子が検体に含まれていれば大量に増幅され、パソコン画面上に現れるグラフでその存在を知らせてくれます。

 ●偽陰性と偽陽性

 感染症診断の検査をすると、感染しているのに陰性(偽陰性)になったり、感染していないのに陽性(偽陽性)になったりすることがあります。感染の時期によってウイルスの量が少なかったり、検体採取が不十分だったりすると偽陰性の原因になります。

 一方、目的の病原体以外の物質が混入し、反応すると偽陽性の原因となります。また、検体や試薬の取り扱いに不備があったり、検査手順が正しく行われなかったりしても偽陰性、偽陽性の原因になります。

 ●感度と特異度

 その病気に感染している人の群で検査をして、陽性と判定される割合(真陽性率)を検査の「感度」、感染が無い群で陰性となる割合(真陰性率)を「特異度」と呼びます。

 PCR検査のように感度が高い検査では感染を見逃すことはまれなため、陰性結果で病気を否定するのに優れた検査と言えます。これに対し、抗原検査のように感度があまり高くない検査では、結果が陰性でも一定の割合で見逃しが起こるため注意が必要です。臨床の症状から感染の可能性が高いと考えられた場合は検査を繰り返したり、他の検査法を併用したりします。

 一方、特異度が非常に高い検査では偽陽性がまれなので、結果が陽性であれば目的の病気であると診断できます。遺伝子検査、抗原検査ともに特異度は高いと言えます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年08月03日 更新)

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