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第5部 公立病院の苦悩 (5)改革 ニーズつかみ研修医確保

4月から岡山大病院で研修医として働く金谷さん(右)。専門研修の早期スタートが選択の決め手になった=同病院

 「順調ですよ。切ったところは痛くないですか」

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)の外科病棟。研修医の金谷信彦さん(25)が60代の男性患者に話し掛ける。前日、胃がん手術で助手を務めた。ガーゼ下の傷口を、指導医と確認していく。

 今春、同大医学部を卒業。4月から同病院で2年間の臨床研修をスタートさせた。最初の1年間は院内で外科を中心に回り、2年目は関連病院に場所を移し、内科や地域医療を学ぶ。

 同級生の多くが研修先にしたのは症例の多い総合病院。移植医を目指す金谷さんは、専門的な医療を早く学べる場として大学病院を選んだ。

 ここ数年、10人前後しか研修医を確保できなかった岡山大病院。10年度は金谷さんら31人が決まり、初めてのフルマッチ(定員充足率100%)を達成した。

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 2004年スタートの臨床研修制度は「医師が専門に偏り、幅広い医療に対応できない」という反省から導入された。ところが、都市部の病院に研修医が流れ、地方で深刻な医師不足が起きると、「臨床研修が医療崩壊の根源」との批判が全国で巻き起こった。

 しかし、岡山大病院で臨床研修を担当する卒後臨床研修センターの金澤右教授は「臨床研修は若手の平均的なレベルアップには有効」と評価。「大学に研修医が集まらないのは、そのニーズをつかみ切れていなかったこともあるのではないか」と反省する。

 同病院は本年度から、臨床研修のプログラムを大幅に変えた。これまでの幅広い診療科を「広く、浅く」学ぶものから、先進医療に強く、多くの関連病院を抱える岡山大病院の特色を生かし、専門研修とプライマリーケア(初期診療)をともに重視するというものだ。

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 「研修医の中には『これをやりたい』と明確な目標を持っている人と、自分の進む道を探そうという人がいる。前者には研修の初期から専門的な研修を提供できるようにした」と金澤教授。

 その上で総合的な診療技術や地域医療などは、関連病院を中心とした中四国にある93の医療機関がつくった「協力型研修病院群」で学ばせる。病院群には、県南の大規模な総合病院や医師不足に悩む公立病院、県北の中小病院、へき地の診療所などさまざまな施設が名を連ねる。

 金澤教授は「中四国の医療を支える人材を育てたい気持ちは、私たちも他の病院も同じ。協力し合い、地域全体で医師を育てていく発想だ」と話す。

 研修病院群の一つ、高梁市国民健康保険成羽病院の鶴見尚和副院長は「医師育成の観点からも評価できるし、へき地の医療機関にも若い医師が来る非常に意義深い取り組み」と期待を込める。

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 「彼らをどう育てていくか、全国から注目されている」

 10年度の研修医名簿を手に、金澤教授はあらためて思う。

 大学病院が地域の医療機関に医師を派遣してきたかつての医局の機能の回復はまだ難しい。だが、新しい受け入れ体制の構築で、可能性が広がっていると感じている。

 「地域の中でキャリアパス(職務経歴)を描ける仕組みを関係者全員でつくっていきたい。それができれば、医師の定着にもつながるはずだ」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年05月08日 更新)

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