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第6部 命の値段 (2) 高額療養費 通院、限度額 高まる不満

患者の情報をやりとりする宗好さん(右)と岡本さん。経済的問題などを早くキャッチするよう心掛けている

 「こんなに(治療費が)かかるんじゃ、やっていけない」

 大腸がんで抗がん剤の通院治療を続ける藤原義一さん(52)=玉野市築港=が、岡山赤十字病院(岡山市北区青江)のソーシャルワーカー宗好祐子さん(38)に相談したのは、通院治療を始めて2カ月たった2008年12月だった。

 藤原さんへの請求は、2週間ごとに6万~7万円に上っていた。高額療養費制度を利用しても、自己負担限度額を超えた医療費は3カ月先でないと返ってこない。

 「抗がん剤の通院治療が普及する一方、このところの不況の影響で当座の支払いの工面に困る患者さんの相談が増えてきた」と宗好さんは言う。

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 岡山県によると、国民健康保険で保険者が患者に払い戻す高額療養費は08年度で約19万8千件、約129億2千万円。10年前に比べ件数で2・3倍、金額で1・8倍と大幅に増えている。

 07年4月、入院の場合は窓口で限度額以上を払わなくてすむよう制度が改正された。しかし、通院については「入院ほど高額にならない。複数の医療機関にまたがる場合があり、把握が難しい」(厚生労働省保険課)として見直しはされていない。

 宗好さんは、窓口では患者に限度額のみを請求し、保険者からの還付を直接病院に入金してもらう「委任払い」を藤原さんに勧めた。これで、一度に多額の現金を用意する必要はなくなった。

 「ただ、どこの病院でも導入しているわけではない」。集金管理などの煩雑な仕事が増えたり、周知が進んでいないからだという。

 宗好さんは「患者の現状に合わせ、通院も入院と同様に負担軽減のため制度を改正してほしい」と訴える。

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 限度額の見直しを求める声も根強い。70歳未満の「一般」(国民健康保険で年間所得600万円未満)は、ほぼ現行制度になった1984年の時点では月5万1千円。その後、医療費の増加などを受けて3万円近く上がり、約8万円になっている。

 東大医科学研究所(東京)が昨年末から今年初め、がんや糖尿病などの治療を継続中の患者227人に行ったアンケートでは、高額療養費の限度額について「引き下げてほしい」と答えた人が89%。経済的負担を理由に治療の中止を考えたことがある人も38%いた。

 児玉有子特任研究員は「患者の寿命も延び、治療が長く続く疾患が増えている。(高額療養費制度が)十分な患者の負担軽減になっているとは言えない」と指摘する。

 11日の参院厚労委員会で、長妻昭厚労相は限度額の一部引き下げを検討する考えを明らかにしたが、議論は動き出したばかりだ。

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 主に抗がん剤治療を行う岡山赤十字病院の外来化学療法室。担当看護師の岡本みどりさん(48)には気がかりなことがある。

 月80~100人の患者のうち、何人かは途中で治療に来なくなる。大概は「都合が悪くなった」としか言わない。

 岡本さんは医療費の負担軽減策や専門のソーシャルワーカーの連絡先を伝えるなどしているが、「お金の悩みはなかなか患者が口にしにくい」と話す。

 「以前は、お金が治療の行方を左右するとの認識は(医療側に)乏しかったのですが…」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年05月25日 更新)

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