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第6部 命の値段 (4) 不況の波 貧困が疾病生む悪循環

水島協同病院の森田さん(左から2人目)と志賀さん(同3人目)。患者が適切な治療を受けられるように生活状況の把握に努める

 <派遣切りに遭い、車上生活の末、精神疾患を発症した>

 <左官業の仕事がなくなり、極度の栄養失調になって「かっけ」で入院してきた>

 4月下旬、水島協同病院(倉敷市水島南春日町)で開かれた、現場の看護師らによる「一職場一事例」運動の報告検討会。各職場が対応に苦慮した事例などを挙げ、患者の生活に目を向けるのが狙いだ。

 一昨年の世界同時不況は、国内有数のコンビナートを抱える水島地区を直撃。患者の経済的問題が深刻さを増す中で行われた。

 パネリストで登壇した同病院のソーシャルワーカー森田千賀子さん(35)は「病気だけでなく、憲法で保障された『健康で文化的な生活』が守られているか全職員が考えて患者に接してほしい」と訴えた。

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 森田さんが所属する医療連携相談室では5人のソーシャルワーカーが患者の相談に応じている。

 最近目立つのは生活保護の申請をめぐる相談だ。昨年度は61件に上り、前年度の約3倍に急増した。働き盛りの30代~50代からも多い。

 生活保護の申請時に受ける病院検診で、高血圧や糖尿病、肝炎などの治療を中断していたことが判明する場合も少なくない。

 「生活が厳しいと医療費は後回しになりがち。重症になるまでみな受診を我慢しているのでは」と森田さんは推測する。

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 患者の経済的困窮は病院経営にも影を落とす。未収金の増加だ。

 「回収しないといけないけど、それで患者さんが病院に来づらくなっても…」

 笹舘勝人医療事務課長(46)はジレンマを抱える。昨年度、回収できずに欠損処理した医療費は約1千万円。払う意思のない問題患者もいるにはいるが、「払いたくても払えない」ケースが増えたと感じている。

 4月にも、数年前に医療費を払わないまま糖尿病の治療を中断した50代の男性が症状を悪化させ、救急車で運ばれてきた。「お金を払っていないのが気になっていた」とばつが悪そうだったという。

 支払いできない患者には、ソーシャルワーカーと連携して医療費の減免制度を紹介したり、少額での分納を勧める。「だが、相談しない患者も多い。お金がないというのは自分からは言いづらい」と笹舘課長。

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 「医療の現場は生活問題のるつぼです」

 ベテランのソーシャルワーカーで医療連携相談室長の志賀雅子さん(59)は昨年2月、労働団体とともに派遣切りや雇い止めにあった人の生活再建を手助けする「ほっとスペース25」を病院そばの空き店舗を借りて立ち上げた。

 きっかけは、その1カ月ほど前の“事件”。公園に倒れていたホームレスの男性が救急車で同病院に運ばれ、手遅れで凍死した。

 志賀さんはほっとスペースに寝泊まりできる部屋も確保。しかし開設後、利用者にうつや食欲不振の症状が多いことに気付いた。

 「『貧困が疾病を生み、疾病が貧困を生む』と昔から言うけど、悪循環を起こすと歯止めがかからなくなる。まるで滑り台のようにね」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年05月27日 更新)

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