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第6部 命の値段 (6)限界 基盤弱い国保 財政深刻

市民が相談に訪れる倉敷市国民健康保険課の窓口。保険料をアップしても医療費の増大をなかなか賄えない

 倉敷市役所(同市西中新田)1階にある国民健康保険課。窓口にはこの日も、失業したという高齢の男性が保険料の減免を求め、職員と向き合っていた。

 日常的な光景の脇で、北山卓課長(保険部次長)が話す。

 「所得の1割を超える保険料の負担が厳しいのはよく分かる」

 同市の保険料率は本年度、所得の11・3%(介護保険料含む)。医療費の増大を受け、市は保険料率を2003年度の9・8%から2回上げた。それでも賄えず、市は一般会計から毎年5億~9億円を国保会計に繰り入れている。

 「これ以上(加入者負担になる)保険料アップは避けたい。しかし、国保の厳しさも年々増している」と北山課長。09年度の市の国保予算は約446億円。10年前の約1・8倍に膨れあがった。

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 「市町村が運営する国保は『国民皆保険の母』と言われる一方で、『その他全部』をカバーするだけに、財政基盤が弱い」

 旧厚生省保険局にいた岡山大大学院の浜田淳教授(医療政策・医療経済学)は言う。

 制度発足時(1961年)に7割近くを占めていた農林水産業・自営業者は今、2割を切り、代わって高齢者などの無職世帯が5割強を占める。1人あたりの医療費は高齢者ほど高い。低所得者層の滞納問題も深刻だ。

 国は国保への公費(税)負担を増やす一方、83年に老人保健制度を導入し、会社員や公務員などが属する被用者保険から高齢者医療へ拠出金を出させている。

 だが、その被用者保険側も赤字にあえぐ。

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 「かつてない大きな引き上げ幅です」

 中小企業を中心とした全国健康保険協会(協会けんぽ)岡山支部の細井壽之総務企画部長は厳しい表情だ。

 前身である政府管掌健康保険時代の07年度から3年連続の赤字。特に不況による事業者の業績悪化が財政難に拍車を掛けている。4月から全国で保険料率が一斉に上がり、岡山県は8・22%から9・38%になった。月収28万円だと年に約2万円の負担増だ。

 保険料アップ幅を抑えるため、今月12日には協会けんぽへの国庫補助率を上げる改正健康保険法が成立した。だが、その財源の半分を大企業中心の健康保険組合や公務員の共済組合から拠出させるため、「肩代わり」させられる組合側が反発する事態になっている。

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 廃止される方針の「後期高齢者医療制度」の行方も懸念材料だ。75歳以上の人は原則国保に加入する案が有力視されている。そうなれば国保のセーフティーネット(安全網)としての役割は一層増す。だが、倉敷市の北山課長は「今のままでは限界を感じる」と訴える。

 伸び続ける医療費を誰がどう負担するのか―。国の動きから将来は見えず、地方では綱渡りの帳尻合わせが続く。

 京都大の西村周三副学長(医療経済学)は医療保険制度の抜本的見直しを唱える。

 「高齢者の医療費は消費税など公費の拡大が欠かせない。税負担は増えるが、誰もが納得できる制度に再構築し、国民に示していく必要がある」

     ◇

 第6部おわり。第7部は、医療者と患者の「ずれ」を修復する新たな取り組みなどを通し、地域の医療のあすを探ります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年05月30日 更新)

タグ: 医療・話題

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