(7)多職種で認知症の人の意思決定を支える 万成病院生活支援相談室精神保健福祉士 本城谷道史
■認知症の人の意思決定支援
認知症の人は「わからない人」「自分のことを話せない、決められない人」と思われがちですがそうではありません。
2018年に厚生労働省から出された「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」では、認知症の人にも「意思」があることを前提に、認知症に関わる人は意思を丁寧にくみ取り、本人が意思決定できるように可能な限りの支援を行うことが求められています。
■血管性認知症のAさん
血管性認知症の80代女性のAさんはさまざまな要求を大声で叫び続け、怒りっぽく落ち着かない状態が続き万成病院に入院となりました。薬物療法により興奮状態はなくなりましたが息子さんの名前を大声で叫び「家に帰りたい」という帰宅要求は続いていました。
大声で帰宅要求を繰り返すことは認知症の問題行動として捉えがちですが、主治医より「認知症があっても意思が全く無いわけではない。息子さんと生活したいというのは、はっきりとした本人の意思だと思う」「息子さんと一緒に生活はできないだろうか」と自宅退院に向けての指示がありました。
自宅の生活環境の評価を行うため作業療法士と精神保健福祉士で自宅訪問を行いましたが、自宅は物があふれ生活を行う上でさまざまな問題がありました。同居する息子さんもAさんとの同居を希望していましたが、息子さん自身も病気を抱え、介護力は乏しく福祉サービスが必要な状況でした。
・Aさんの想いに寄り添って
自宅退院に向けAさんと一緒に看護師、作業療法士、精神保健福祉士で数回自宅への外出を行いました。外出時は穏やかな表情で母親として息子さんを思いやる言葉が聞かれ、地域から孤立した今までの生活についても話してくれました。
病棟内では意欲が低下しベッドから動くことを嫌がり、食事もあまり食べられませんでしたが、自宅では息子さんが用意した弁当を食べるなど生き生きとした様子が見られました。病棟スタッフは「Aさん、息子さんにとっては一緒に生活することが何より大事なこと」であると考えました。
・想いをつなげていく支援
「少しでも長く親子一緒に自宅で生活をすること」を共通の目標として、Aさん親子の財産管理のサポートのため成年後見制度の利用、介護保険サービスの利用に向けてケアマネジャーの決定などさまざまな課題に対し、どうサポートしていくかを支援者と検討しました。支援者同士が相談し合える体制をつくりながら、Aさんにはその都度状況を説明し意向確認を行い、切れ目のない支援体制を整えていきました。
入院してから10カ月後、互いの支援体制・生活環境が整い退院。自宅での親子の新たな生活が始まりました。
■認知症の人の想いを支援するために
認知症の人が大切にしていることや今までの暮らし方、性格を知り、認知症の人の意思を尊重し、住み慣れた地域の環境で自分らしく暮らせるよう、各職種が専門性を生かして協働し、支援していくことが重要だと考えます。
◇
万成病院(086―252―2261)。連載は今回で終わりです。
ほんじょうや・まさふみ 吉備国際大学社会福祉学部卒業。2004年に万成病院へ入職。現在、認知症治療病棟と地域連携室を担当。精神保健福祉士。日本臨床倫理学会臨床倫理認定士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。
認知症の人は「わからない人」「自分のことを話せない、決められない人」と思われがちですがそうではありません。
2018年に厚生労働省から出された「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」では、認知症の人にも「意思」があることを前提に、認知症に関わる人は意思を丁寧にくみ取り、本人が意思決定できるように可能な限りの支援を行うことが求められています。
■血管性認知症のAさん
血管性認知症の80代女性のAさんはさまざまな要求を大声で叫び続け、怒りっぽく落ち着かない状態が続き万成病院に入院となりました。薬物療法により興奮状態はなくなりましたが息子さんの名前を大声で叫び「家に帰りたい」という帰宅要求は続いていました。
大声で帰宅要求を繰り返すことは認知症の問題行動として捉えがちですが、主治医より「認知症があっても意思が全く無いわけではない。息子さんと生活したいというのは、はっきりとした本人の意思だと思う」「息子さんと一緒に生活はできないだろうか」と自宅退院に向けての指示がありました。
自宅の生活環境の評価を行うため作業療法士と精神保健福祉士で自宅訪問を行いましたが、自宅は物があふれ生活を行う上でさまざまな問題がありました。同居する息子さんもAさんとの同居を希望していましたが、息子さん自身も病気を抱え、介護力は乏しく福祉サービスが必要な状況でした。
・Aさんの想いに寄り添って
自宅退院に向けAさんと一緒に看護師、作業療法士、精神保健福祉士で数回自宅への外出を行いました。外出時は穏やかな表情で母親として息子さんを思いやる言葉が聞かれ、地域から孤立した今までの生活についても話してくれました。
病棟内では意欲が低下しベッドから動くことを嫌がり、食事もあまり食べられませんでしたが、自宅では息子さんが用意した弁当を食べるなど生き生きとした様子が見られました。病棟スタッフは「Aさん、息子さんにとっては一緒に生活することが何より大事なこと」であると考えました。
・想いをつなげていく支援
「少しでも長く親子一緒に自宅で生活をすること」を共通の目標として、Aさん親子の財産管理のサポートのため成年後見制度の利用、介護保険サービスの利用に向けてケアマネジャーの決定などさまざまな課題に対し、どうサポートしていくかを支援者と検討しました。支援者同士が相談し合える体制をつくりながら、Aさんにはその都度状況を説明し意向確認を行い、切れ目のない支援体制を整えていきました。
入院してから10カ月後、互いの支援体制・生活環境が整い退院。自宅での親子の新たな生活が始まりました。
■認知症の人の想いを支援するために
認知症の人が大切にしていることや今までの暮らし方、性格を知り、認知症の人の意思を尊重し、住み慣れた地域の環境で自分らしく暮らせるよう、各職種が専門性を生かして協働し、支援していくことが重要だと考えます。
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万成病院(086―252―2261)。連載は今回で終わりです。
ほんじょうや・まさふみ 吉備国際大学社会福祉学部卒業。2004年に万成病院へ入職。現在、認知症治療病棟と地域連携室を担当。精神保健福祉士。日本臨床倫理学会臨床倫理認定士。
(2020年09月21日 更新)