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コロナとインフル、同時流行に備え 倉敷中央病院副院長兼呼吸器内科主任部長 石田直医師に聞く

石田直医師

 今冬、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)とインフルエンザの同時流行が懸念されている。日本感染症学会は「今冬のインフルエンザとCOVID―19に備えて」と題する提言を8月に発表し、「重大な事態」になることを危惧。外来診療の現場では、患者の症状だけで両者を鑑別するのは困難だとしており、混乱の可能性も指摘されている。われわれはどう行動すべきなのか。提言をまとめた委員会の委員長で、倉敷中央病院(倉敷市美和)副院長兼呼吸器内科主任部長の石田直医師に話を聞いた。

 ―同時流行は確実に訪れるのでしょうか。

 実はよく分からない点もあるのですが、最前線である外来医療の現場では同時流行を前提に、医療体制を整えなければなりません。

 2019―20年のインフルエンザが小さな流行で終わったのは、一つにはソーシャルディスタンスや手指衛生、マスク着用など感染予防策が市民生活に浸透したことが大きいのでしょう。他の感染症である手足口病やRSウイルスも今年は流行しなかったのです。

 もう一つは、一つの細胞に二つ以上のウイルスが感染した場合、片方のウイルスの増殖が抑えられる「干渉」という現象が起きたとの説もあります。

 ―厚生労働省は同時流行を前提に、発熱があった場合、まずは身近な医療機関に相談できる体制を整えるよう、都道府県に通知しました。診療所などでの混乱が懸念されます。

 インフルエンザの年間感染者数は通常なら1千万人ほどです。同時流行の場合、発熱の患者さんがすごく増えるでしょう。インフルエンザと新型コロナは、それぞれ突然の高熱や筋肉痛、味覚や嗅覚の異常といった典型的な症状がないと鑑別は難しいのです。臨床の現場では、症状に加え周辺地域での新型コロナの流行状況に注目し、両方の可能性を考えるべきです。現実問題としては、インフルエンザの検査キットは普及しているので、まずはそちらを調べ、陰性だったら新型コロナを疑うと言うのが手順でしょう。

 ―患者側では、症状があっても、さらなる感染を恐れて受診を控えるケースが出てくるのではないでしょうか。

 発熱があるのに自宅で何日も様子を見るというのはお勧めできません。インフルエンザウイルスは症状が出てから48~72時間で最も増えます。ウイルスが最大量に達する前、48時間以内に治療薬を使えば増殖は抑えられ、重症化を防げます。発熱などインフルエンザが疑われる場合は早めに受診していただきたい。高齢者や持病がある人、小児の患者さんなど重症化リスクのある人は、少しでもおかしいと思ったらかかりつけ医を受診するべきです。

 医療機関では感染伝播(でんぱ)を防ぐため、発熱の患者さんとその他の患者さんで診療の時間と場所を分ける必要があります。駐車場の車内でウイルス検査を行うことも考えられます。

 ―診療に消極的な医療機関も出てくる可能性は。

 診療所の先生方に不安が広がるのはもっともです。感染予防のための十分な設備やスタッフの確保が難しい場合もあるでしょう。ただ、インフルエンザや新型コロナの流行も怖いのですが、その陰に隠れて見えにくくなった他の感染性疾患を見逃すことも避けなければなりません。小児では溶連菌感染症、高齢者では肺炎などでしょうか。

 市民の皆さんには、感染予防のためにソーシャルディスタンスを保ち、頻繁な手洗いやマスク着用を続けていただきたい。社会全体で取り組むことで、インフルエンザ、新型コロナウイルスを含むさまざまな感染症の予防が期待できます。それでも発熱など異常があれば、ためらわずにかかりつけ医に相談してほしい。

 いしだ・ただし 京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所、国立姫路病院(現・姫路医療センター)を経て1988年に倉敷中央病院赴任。2000年から呼吸器内科主任部長、20年から副院長兼務。京都大学臨床教授。日本感染症学会インフルエンザ委員会委員長・インフルエンザ/COVID―19アドホック委員会委員長。

感染症学会 両方検査して

 日本感染症学会の提言「今冬のインフルエンザとCOVID―19に備えて」では、冬季に新型コロナウイルス感染症の大きな流行が予測され、インフルエンザの流行期と重なることで「重大な事態になることが危惧」されると表明。新型インフルエンザの発生も報告されていることから「一般のクリニックや病院での外来診療を対象」に提言を作成したと説明している。

 2019年から20年にかけてのインフルエンザは700万人規模の小流行に終わったが、これは新型コロナへの予防策がインフルエンザにあっても有効であったためと指摘した。加えて、新型コロナウイルスの出現が、インフルエンザの流行に影響したとする「干渉」説も提示。同時流行が起きるかどうかについては、今後の状況に注目する必要があるとした。

 同時流行となれば、両者の鑑別が重要なポイントとなる。患者数はインフルエンザの方が圧倒的に多く、新型コロナなど別の疾患を見逃してしまう恐れがある。インフルエンザは突然の高熱が特徴。新型コロナでは味覚・嗅覚障害が多く見られるが、無症状の感染者も高頻度に存在する。外来診療の場において、インフルエンザや新型コロナの「確定患者と明らかな接触があった場合や、特徴的な症状がない場合」、患者の症状のみで両者を鑑別するのは困難だとした。

 このため、提言では両方の検査を行うことを推奨。インフルエンザの検査キットは臨床現場に普及しているが、新型コロナでは供給は限られているので、まずはインフルエンザの検査を行い、陽性であればその治療をして経過を見ることも考えられるとした。

 小児については、新型コロナやインフルエンザ以外にもRSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、溶連菌、マイコプラズマなど、発熱を伴う感染症が多く存在するとして注意を促している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年10月05日 更新)

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